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突然の車いす生活に絶望…11年後、大声援浴びバーベル挙げる「劣等感抱えていた自分がバカみたい」

読売新聞 / 2024年9月8日 20時47分

パリパラリンピックのパワーリフティング107キロ級で8位だった佐藤和人(8日)=ロイター

 パリパラリンピックは大会最終日の8日、パワーリフティング男子107キロ級(運動機能障害)の決勝があり、佐藤和人(44)(兵庫県警)は175キロを挙げ、8位入賞した。事故で車いす生活となり、あこがれの白バイ隊員にはなれなかったが、初めての大舞台で「多くの観客のなかで試合ができて、本当に幸せだった」とスポットライトを気持ちよさそうに浴びた。(デジタル編集部 池田亮)

 下半身に障害のある選手が、上半身の力だけでバーベルを持ち上げるベンチプレスの競技。この階級には9選手が出場した。

 187キロが自己ベストの佐藤は、3回目の試技で190キロを挙げることが目標だった。1回目を175キロに設定し、「緊張感があった」としながらも、難なく成功。183キロとした2回目は、バーベルを挙げきったものの左側にバランスを崩し「失敗」の判定。再チャレンジした3回目の183キロも左右にバーベルがぶれてしまい、「失敗」と見なされ、悔しいパラリンピックデビューとなった。

白バイ訓練中に悲劇

 佐藤が事故に遭ったのは11年前。兵庫県警西脇署の警察官として、白バイ隊員になるための訓練中だった。旋回の練習をしていた時に転倒。勢いのまま滑走し、バイクもろとも縁石に激突した。

脊髄 ( せきずい ) を損傷し、下半身が動かなくなった。病院のベッドの上で思い浮かぶのは、先々の不安ばかり。「自分一人では動けなくなってしまった。この先どうしたらいいのだろうか」。当時、長男はまだ1歳半、次男は生後半年。それでも妻・彰子さん(44)は、幼い子ども2人を連れて、普段通り接してくれた。「つらい思いをしているのは自分だけではない。このままではあかんな」。そう言い聞かせてリハビリに励んだ。

伝説の選手に衝撃

 1年9か月に及ぶ入院とリハビリを経て、復職した。だが車いす生活では、事件の捜査も難しいし、当直にも入れない。「同期はどんどん昇任していくのに自分は巡査長のまま。でも現場にも出られないし仕方ないか」。そう自分を納得させたが、劣等感はぬぐえず、どこかで見返してやろうという気持ちが芽生えた。

 佐藤がパワーリフティングを始めたきっかけに挙げるのが、今や伝説のパラリンピアン、シアマンド・ラフマン(イラン)だ。2016年のリオデジャネイロ大会の男子107キロ超級で、310キロを挙げて世界記録を樹立。圧倒的なパワーに衝撃を受けた。この競技なら自分も健常者を超えられるかもしれないと、黙々と体を鍛えた。練習は裏切らず、努力した分だけ筋肉は大きくなり、記録も伸びた。パリは届かないかもしれないと半分諦めかけていたが、世界連盟の「推薦枠」で出場を勝ち取った。

 目標とした自己ベスト更新はならなかった。それでも、360度を観客に囲まれた大舞台で、バーベルを押し上げる時にはフランス語で「Allez!(行け!)」と大声援を浴びた佐藤。試合後、「劣等感を抱えていた過去の自分がバカみたい」と晴れやかな表情を見せた。「自分のように障害を負ってしまった人がいれば、こんなに明るい世界があるということを教えてあげたい」。すっかりパラリンピックの (とりこ)となった巡査長は、早くも4年後のロサンゼルス大会を見据えていた。

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