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フィリピン最北端の防衛強化へ予備役募集、台湾有事念頭か…「漁場奪われる」不安の声も

読売新聞 / 2024年9月11日 5時0分

米軍の支援でしゅんせつなどの作業が行われたバスコ港。海中から引き上げられたとみられる石が置かれていた(6月27日)

 フィリピン軍が、台湾につながるバシー海峡を望む最北端バタネス州で、予備役の募集を強化している。台湾有事を念頭に置いた防衛力向上の動きとみられ、地元住民や行政関係者は、中国の軍事的威圧に伴う地域情勢の緊迫化に懸念を強めている。

(フィリピン北部バタネス州 安田信介、写真も)

「戦う準備」

 島々からなるバタネス州は人口約1万9000人で、最北端から台湾の南端までは約140キロ。距離だけでなく言葉や文化でも台湾の少数民族に近いとされる。農漁業や観光が主要産業で、州都にあたるバスコ町があるバタン島にはヤシの木が並び、花々が平屋の家屋を彩る。

 一見平和に見える同州をギルベルト・テオドロ比国防相は2月、比北部の「 先鋒 せんぽう」と呼び、軍施設の増設を指示した。昨年末からは予備役の募集が強化され、地元関係者によれば、数百人が採用された模様だ。海兵隊予備役の担当者によると、対象は18~65歳で、SNSの投稿やチラシで募集する。今秋にも追加募集を行う。

 背景には台湾周辺や南シナ海で威圧を強める中国の存在がある。対中抑止力の強化に動く米国が、利用可能な比軍基地などの拠点を増やす中、台湾有事が実際に起これば、火の粉はフィリピンにも降りかかりかねない。地元の安全保障専門家は、フィリピンがバタネス州を戦略的に重視し、防衛力を高めようとしていると指摘する。

 今年3月にバタン島で海兵隊の予備役に就いたトラック運転手ヘスス・カハヨンさん(37)は、幼少時から軍隊への憧れもあり応募した。1週間の訓練で小銃の扱い方や索敵を学んだ。任務は島内の警備や災害時の支援活動だ。無報酬で、時には仕事も休むため収入は減るが、やりがいを感じている。有事となり戦場に赴く可能性について、「怖いが、必要なら命を懸ける」と話す一方、「妻と7歳の長男を思うと不安だ」とも漏らした。

 地元のフランクリン・レドンド町議も「地域を助けたい」と募集に応じた。「いざとなれば戦う準備はあるが、戦争は起きてほしくない」と明かした。

米軍支援で港湾整備

 米国も台湾有事などへの懸念から、バタネス州の周辺海域を地政学的に重要視している。昨年11月、2016年に中断していた比軍との合同パトロールを再開した。米比両軍による定例の合同演習「バリカタン」の今年の会場にもなった。

 中国への抑止力強化に向け、昨年4月に発表された比国内で米軍が使用できる4拠点のうち3拠点は、台湾に近い比北部だ。拠点整備を経て、米軍は装備の備蓄と機動的な部隊展開が可能になる。今年7月にマニラで行われた外務・防衛閣僚会合(2プラス2)では、比軍の装備充実などのため米国が5億ドルの支援を行うと発表した。

 バスコ港では5~6月、米軍の支援で、がれきの除去や 浚渫 しゅんせつ作業が行われた。将来的に米軍艦船が停泊し、軍事物資を運び込む可能性を指摘する報道もある。

「問題を起こすのは中国」

 地元の反応は割れている。バスコ町のアルリーン・ベラヨ副町長は「万一のことがあれば、米国との協力は必要だ」と対米連携を重視する。これに対し、テレスフォロ・カスティリェホス元州知事は、米国が有事に際して「フィリピンとともに戦ってくれるとは思えない」と連携に懐疑的だ。

 バタン島の漁師マリアノ・ガラナさん(68)は周辺海域で中国船を見たことはないが、比軍がパトロールする中、緊張の高まりは感じている。「有事の際、生計手段の漁場を奪われると困る」と語る。アルバイトでの出漁経験がある警備員ロメオ・アグアサさん(52)も、「今までこの地域に問題はなかった。問題を起こすのは中国だ。ここは台湾に近すぎる。何かあれば被害が及ぶ」と懸念を口にした。

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