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白人男性偏重を解消、黒人・女性・米国人以外も月探査のアルテミス計画…「もはや米国単独では月に行くことはない」

読売新聞 / 2024年9月11日 8時5分

アルテミス計画第2弾に参加する4人の宇宙飛行士。右からビクター・グローバー、リード・ワイズマン、クリスティーナ・コック、ジェレミー・ハンセンの各氏(2月28日、米カリフォルニア州サンディエゴで)

 宇宙飛行士の多様性が広がり始めている。米国主導の有人月探査「アルテミス計画」の一環で来年9月、黒人、女性、米国人以外の飛行士がそれぞれ初めて月探査に挑む。1972年に終了したアポロ計画以来、ほぼ半世紀ぶりに人類が月を目指す注目のミッションだ。(ワシントン 冨山優介、写真も)

「バトン」

 「自分は黒人であると同時に一人の人間だ。黒人の代表であることはもちろん大切だが、全人類のための月探査だと思っている」

 来年9月、黒人として初めて月へ向かう米航空宇宙局(NASA)飛行士のビクター・グローバー氏(48)は本紙のインタビューにこう語った。アルテミス計画第2弾のクルーとして、新型宇宙船「オリオン」で月を周回する予定だ。

 海軍勤務を経て2013年にNASAの飛行士に選抜されたグローバー氏は20年、当時は宇宙航空研究開発機構( JAXA ジャクサ)の飛行士だった野口聡一氏(59)らとともに、米スペースXの宇宙船「クルードラゴン」に搭乗し、初の宇宙飛行を経験した。

 23年4月、同計画第2弾のクルーに選ばれると、「有人宇宙飛行はリレーのようなもので、世代を超えて受け継がれてきたバトンを受け取った」と語った。

 アルテミス計画は有人の月面探査などが目標で、NASAは計画第1弾として22年12月にオリオンの無人飛行試験を成功させた。第2弾で月の周回軌道を飛び、26年9月の第3弾で「白人以外」と「女性」の飛行士を初めて月面へ送る予定だ。

 クルーの多様性を重視した布陣で、第2弾は白人男性のリード・ワイズマン氏(48)が船長を務め、グローバー氏と女性のクリスティーナ・コック氏(45)と、米国人以外で初めて月へ向かうカナダ宇宙庁飛行士のジェレミー・ハンセン氏(48)が参加する。

 ハンセン氏は本紙のインタビューで「国を問わず多様な人間が協力し、困難を解決する好例を世界へ示せるはずだ」と意気込んだ。

歴史塗り替え

 地球から約38万キロ・メートル離れた月まで飛行したのは、これまで米国の白人男性24人しかいない。アルテミス計画第2弾は、白人男性に限られてきた月探査の歴史を塗り替えることになる。

 東西冷戦期の1950年代後半、世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた旧ソ連に後れを取った米国は、初の有人宇宙飛行「マーキュリー計画」(58~63年)を推進した。選抜された7人の飛行士は「マーキュリー・セブン」と呼ばれ、国民的人気を博したものの、全員が白人の男性で軍出身だった。

 人類が初めて月に降り立った「アポロ計画」では、68~72年に24人の飛行士が有人月探査に従事したが、いずれも白人男性で、多くが軍出身だった。うち12人が月面に降り立った。

 米国の科学技術史に詳しい米空軍大学のウェンディー・ウィットマンコブ教授(39)は「初期の宇宙飛行はリスクが高く、軍パイロットから飛行士が選ばれた。当時、白人の男性以外の軍パイロットがおらず、偏りが生じたのは必然だった」と解説する。

 だが、こうした「偏り」は公民権運動で批判の的になった。アポロ計画が多額の予算を投入して白人だけを月に送るものと問題視され、黒人らの貧困対策にその予算を使うよう求める声が出た。旧ソ連では、ワレンチナ・テレシコワ氏(87)が63年、女性初の宇宙飛行を実現していた。

 多様性の欠如を意識していたNASAは81年、安全性と居住性を高めたスペースシャトルの就役に合わせ、文民や女性、人種的少数者に門戸を広げた。サリー・ライド氏(2012年死去)が米国の女性として初めて宇宙飛行したのは1983年6月のことだ。

日本からも

 NASAの多様性推進部門の担当者、シャーラ・ランバート氏は「多様な文化や考え方を持った人材が集まることで力が生まれる。NASAは全ての人に宇宙での居場所があるよう努力を続けている」と強調する。

 米国が連携する相手国も幅が広がっている。宇宙開発では新興国のアラブ首長国連邦(UAE)が今年1月、アルテミス計画参加を発表した。月面着陸の機会を得る可能性がある。

 UAEの宇宙飛行士、スルタン・アルネヤディ氏(43)=写真=は本紙に「子どもの頃に夢だと思っていたことが、現実になりつつある」と目を輝かせた。

 日米両政府は今年4月、同計画で日本の飛行士が将来、月面に降りることに合意した。NASAのビル・ネルソン長官は合意後の記者会見で「米国はもはや、単独で月に行くことはない」と述べ、米国が独力で月面着陸を成し遂げた時代との違いを強調した。

 世界で初めて月の裏側から土壌を採取するなど月探査で猛追する中国に対し、相対的に国力の落ちた米国は他国と手を携えて対抗するほかない。多様性を掲げるアルテミス計画は、米国を中心に各国が結集する軸となる。

 ◆アルテミス計画=米国が主導し、日本、欧州、カナダ、アラブ首長国連邦(UAE)が参加する有人月探査計画。月面での持続的な活動や2030年代の火星有人着陸も目標に掲げる。アルテミスは「アポロ計画」の命名の由来になったギリシャ神話の太陽神「アポロン」の双子のきょうだいで、月の女神。

障害あろうとクルーの一員に…元パラアスリートの飛行士候補 ジョン・マクフォール氏 43

 欧州宇宙機関(ESA)は2022年、障害者を対象に募集した初の飛行士候補として、英国人で右脚に義足を着けるジョン・マクフォール氏(43)を選んだ。08年北京パラリンピック男子100メートルで銅メダルに輝いた元アスリートで、国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在を実現すれば世界初となる。今月5日にオンラインのインタビューに応じた。

 ――飛行士を目指した経緯は。

 「走ることが好きで、19歳のときに交通事故で右脚を失った後も走り続けた。やがて人と競い合いたいと思い、パラリンピックに出場した。『身体障害者が飛行士になれるのか』というESAの問いかけに自分も興味を抱いた」

 ――宇宙飛行への期待は。

 「(無重力に近い環境での)訓練を経て、宇宙へ行きたいという思いはより強くなった。障害者が通常のクルーの一員として国際宇宙ステーションに滞在することを実現したい」

 ――「パラアストロノート(パラ宇宙飛行士)」と呼ばれることについて。

 「自分は父親だが、『パラパパ』ではない。『パラ』という言葉をつけることで、人を分け隔てすることにならないか。障害があろうとなかろうと、任務をこなせれば飛行士になれることを示したい」

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