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デジタル教科書 なぜ利用の拡大を急ぐのか

読売新聞 / 2024年9月11日 5時0分

 デジタル教科書は学習効果がいまだ明確ではない。通信環境の整備も遅れている。この状況で一気に利用を拡大する必要があるとは思えない。

 文部科学省が、デジタル教科書の利用を推進する中央教育審議会のワーキンググループ(WG)の初会合を開いた。

 今後、学習指導要領の改定に伴う教科書の刷新や政府が全国の児童生徒に配布した学習用端末の更新が本格化するためだという。

 文科省は初会合で、「紙を全てデジタルに置き換える」など五つの案を示した。デジタル教科書の活用を大幅に拡大させたい意向があるのは明らかだ。

 デジタル教科書は2022年に紙の教科書との「併用」が決まり、今年度から小5~中3の英語と一部の算数・数学で導入された。

 デジタルには、音声や映像で子供の理解を助ける役割が期待される一方、深い思考や記憶の定着には不向きだとされる。結局、「紙も大事だ」との結論に至り、限定的使用にとどめた経緯がある。

 それからわずか2年、しかも今年度から本格的な利用を開始したばかりという段階で、状況がどう変わったというのか。

 文科省は22年、デジタルは「紙と同等以上の効果がある」とする「検証」結果を公表したが、この時も明確な根拠に乏しかった。

 通信環境の整備も進んでいない。教員が不便に感じているのは、デジタル教科書にエラー表示が出た際の対処だ。子供が授業と無関係な操作に集中したり、視力が悪化したりという弊害もある。

 使用拡大でアクセスが集中した場合、通信はダウンしないのか。災害やシステム障害の際はどうするのか。不安は尽きない。

 教育は、人を育てる、極めて人間的な営みだ。その基本となる教科書を十分な検証もせずにデジタル主体に切り替えては、将来に禍根を残す。デジタルはあくまで紙の教科書を補助する役割として、相乗効果を図るのが望ましい。

 WGに、教科書のデジタル化に慎重な学者らは入っていない。これでは結論ありきではないか。

 学習指導要領の改定や端末の更新、そのための予算獲得といった役所の論理ではなく、子供の学びに何が必要かという、教育の基本に立ち返った議論が不可欠だ。

 人間は紙の本を読む時、ページをめくりながら、その感触や紙質などの情報と共に内容を記憶するとされる。紙の文化を捨て、子供の思考力に悪影響が出ることがあったら取り返しがつかない。

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