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「黒い雨」判決 幅広い被害者の救済が必要だ

読売新聞 / 2024年9月11日 5時0分

 原爆の投下から79年が経過し、被害者は高齢化が著しい。国や地元自治体は、被害を幅広く認定し、早期に救済の道を開く必要がある。

 長崎で原爆に遭いながら、被爆者と認められてこなかった44人が、長崎県と長崎市に被爆者健康手帳の交付を求めた裁判の判決が長崎地裁であった。判決は、原告のうち15人を被爆者と認め、手帳の交付を命じた。

 原告らは原爆投下時、爆心地から遠くない距離にいたが、国が定める「被爆地域」外だったため、被爆者と認定されなかった。手帳が交付されない「被爆体験者」と位置づけられ、医療費が原則無料の被爆者とは支援に差がある。

 判決は、県や市が1999年頃に地元住民の証言を集めた調査などから、被爆地域外の3村に放射性物質を含む「黒い雨」が降ったと認定した。その上で、手帳の不交付は「社会通念に照らし、著しく合理性を欠く」と指摘した。

 長崎の原爆投下では、黒い雨が降った地域が限定的で、研究資料も少ない。そのため、判決は過去の住民証言を重視し、一定の被害救済につなげた。

 ただ、残る29人の原告らについて、判決は、放射性物質が降った証拠はないとして訴えを退けた。原爆投下後に広範囲に降った灰の影響も認めなかった。

 広島原爆を巡る裁判で、広島高裁は2021年、「黒い雨に遭った人は被爆者だ」と判断し、原告全員を被爆者と認定した。国は判決を受け入れ、確定した。

 その後、国は新基準を設け、黒い雨に遭ったことを否定できず、がんなどを患っている場合は、被爆者と認定する仕組みを導入した。だが、長崎の被爆体験者については、客観的な記録に乏しいとして救済の対象外としてきた。

 被爆者援護法は、原爆という特殊な戦争被害について、国に補償や救済の責務を課す制度である。にもかかわらず、対象となる区域を機械的に線引きし、救済範囲を狭めていることは、法の趣旨にもそぐわないのではないか。

 岸田首相は8月、長崎市で被爆体験者と面会し、合理的な解決に向けた対応を武見厚生労働相に指示した。長崎の被爆体験者は6300人いる。救済策を速やかに講じることは、政治の責任だ。

 放射性物質が降った地域を厳格に特定しようとすれば、被害の救済はおぼつかない。国は、県や市と連携し、病に苦しむ患者を一人でも多く救済できる方策を検討してもらいたい。

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