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蝦夷地が舞台の時代劇「シサム」…主演・寛一郎、アイヌに共鳴する純粋な青年武士をこよなく魅力的に

読売新聞 / 2024年9月13日 11時0分

(C)映画「シサム」製作委員会

 江戸時代初期の 蝦夷 (えぞ)地を舞台にした時代劇「シサム」(中尾浩之監督、9月13日公開)の主人公は、松前藩の青年武士。アイヌの村(コタン)に身を寄せたことがきっかけで、彼の人生は変わる。演じるのは、最近の活躍から目が離せない寛一郎。その演技は観客の目を柔らかに開く。(編集委員 恩田泰子)

 「シサム」はアイヌ語で隣人の意。和人を含めアイヌ以外の人を指す言葉でもあるという(ムの表記は、正式には小文字)。

 寛一郎が演じる主人公・高坂孝二郎の物語は、旅立ちから始まる。松前藩の主な収入源であるアイヌとの交易のため、兄・栄之助(三浦貴大)とともに蝦夷地を目指す。行先は高坂家の商場・シラヌカ。孝二郎にとっては初めての交易の旅。栄之助と比べて未熟者扱いされるのは面白くないが、頼れる兄がいるのは心強い。

 その兄が殺される。敵討ちを期して森に入った孝二郎も襲われて深手を負うが、アイヌの人々に助けられる。あるコタンに身を寄せた孝二郎は次第に、自然と共生するアイヌの生活や風習、豊かな精神文化に共鳴していく。だが、その生活は和人に脅かされていて、近隣のコタンでは蜂起の気運が高まる。松前藩は黙ってはいない。きなくさい状況下、孝二郎は兄を殺した男を見つける。孝二郎は葛藤する。藩を支え、家の名誉を守るか。それとも……。

 分断か、共生か。戦争か、平和か。どちらが正しいかははっきりしているはずなのに、現実の世界は往々にして逆を行く。どうしてそうなるのか。どうすれば変えられるのか。この映画を見て、孝二郎の「旅」に同道することは、それを見据えることでもある。

 今こそ見据えるべき大切なことを扱うストーリー。そうした作品は、へたをすれば説教くさくみえかねない。ただ、この映画、そこを切り抜けている。寛一郎という俳優が、観客を、孝二郎の物語へと自然にひきつけていくからだ。

 孝二郎は、未熟で、武芸の腕もそれほどではない。だが、彼は純粋だ。現実を懸命に理解しようとして、目を凝らし、行動する姿は、ナイーブであぶなっかしいが、ひたむきでうそがない。そんな人物を、寛一郎は作為を感じさせずこよなく魅力的に演じる。くもりのないまなざしの価値を再発見させる。はまり役。「せかいのおきく」「ナミビアの砂漠」などでの活躍でも強い印象を残した、この28歳の俳優は、自身の個性で役を生かして作品の世界を広げる人になった。

 兄役の三浦をはじめ、和田正人、坂東龍汰、サヘル・ローズ、古川琴音など、共演者も気になる顔ぶれ。孝二郎の母親役の富田靖子や先輩藩士役の緒形直人は、武家の人間像をしかとあらわす。

 ぐっとくるのは、物語の終盤で主人公が選ぶ「戦い方」。真実を記録することの意味をくっきりと刻み付ける映画でもある。

 多くの場面の撮影は、北海道白糠町で、同町の全面支援・協力のもと行われたという。アイヌの衣・食・住も丁寧に描かれている。アイヌでない俳優たちが発するアイヌ語のせりふがこなれているのかどうかはわからなかったが、全員が日本語で通すより自然なのは確かだ。また、従来の時代劇と比べれば、建物のセットはかなり絞り込まれているものの、撮影地の自然の風景を活用しながら、目に映るもの一つ一つに神経をいきわたらせようとしているのが伝わってくる。

 米国の有料テレビチャンネルによる真田広之主演・プロデュースのドラマ「SHOGUN 将軍」の米エミー賞最多ノミネートで、日本を描く時代劇の可能性が改めて注目されている。海外と比べ、日本の映像作品は予算規模が小さいが、ポイントを絞り込んで映像と物語の密度を高めた時代劇が近年、気を吐いている。塚本晋也監督「斬、」や、福永壮志監督による日米合作の「山女」などがそうだ。本作も健闘している。コンパクトで個性的な作品もまた、時代劇の可能性を広げているように思う。

 ◇「シサム」=上映時間:113分/企画・製作:プロテカ/配給:NAKACHIKA PICTURES=9月13日から、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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