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輪島で学んだ漆芸で陸前高田の文化財復旧に奮闘…東日本大震災で被災の24歳女性「故郷に胸張れる仕事を」

読売新聞 / 2024年9月13日 14時10分

真剣な表情で板戸に漆を塗り重ねる今野さん(8月22日、岩手県花巻市で)

 東日本大震災の津波で全壊した岩手県陸前高田市の県指定文化財「旧吉田家住宅主屋」の復旧作業に、石川県奥能登で漆芸を学ぶ地元出身の今野風花さん(24)が奮闘している。1700人以上が犠牲になった同市のハード面としては最後の復興事業で、震災と能登半島地震を経験した今野さんは「故郷に胸を張れる仕事がしたい」と漆を塗る手に力を込める。(大船渡通信部 広瀬航太郎、写真も)

 かやぶき屋根が特徴的な木造2階建ての主屋は、1802年(享和2年)に仙台藩領気仙郡で地方役人の最上位「 大肝入 おおきもいり」として行政を代々取り仕切った吉田家の住宅として建てられた。震災の津波で全壊したが、がれきの中から見つかった はりや柱などを使って2021年に再建事業が本格化。6・2メートルかさ上げされた元の場所で来年5月の公開に向けて復旧作業が進められている。

 今野さんは、「 大所 だいどころ」と呼ばれる集会スペースと仏間などを仕切る板戸の漆塗りを担当している。板戸は2枚組みが一つ、4枚組みが二つあり、4枚組みの横幅は3・5メートル以上ある。本来の黒みがかった色合いを再現するため、漆を塗って、乾かすという工程を5回繰り返す。板戸1枚の片面を塗るのは30分程度だが、乾燥は4日ほど必要という。

 作業場を兼ねる岩手県花巻市の自宅で7月下旬から取りかかっている。「私にとって最大のプロジェクト。古里の復興に関わることができてうれしい」と話す。

 今野さんは陸前高田市の隣にある大船渡市出身。小学5年の時に、高台にあった学校の校庭から民家などを押し流す真っ黒な津波を目の当たりにした。家族と自宅は無事だったが、この経験から「誰かの手に残るものを作りたい」との思いを抱き、漆の出荷量日本一を誇る岩手の地で漆芸家になることを決意。美術系の学科がある仙台市の大学を卒業し、昨春、石川県輪島市の「県立輪島漆芸技術研修所」に入所した。

 帰省中だった今年の元日の地震で、研修所は断水や建物被害のため休校になり、アルバイト先だった輪島朝市通りの漆器店は全焼した。花巻市で 蒔絵師 まきえしの手伝いをしていた時、知人を介して陸前高田市から復旧作業の打診があった。市教育委員会の佐々木敦美・文化財係長は「復興にかける思いが強い地元の出身者にお願いしたかった」と期待する。

 研修所は10月の再開が決まり、今野さんは9月中に再び輪島へ戻る。それまでに作業を終えるのは難しく、ぎりぎりまで続けた後は岩手県内の家具職人に引き継ぐ予定だ。

 今後は研修所での活動を通じて能登の復興に貢献するつもり。「時間はかかっても、能登も岩手のように必ず復興に向かっていく」。能登への思いも込めて、板戸に漆を塗っている。

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