「訪日お遍路さん」悩ます宿不足…高齢化・コロナ禍で廃業、言葉の壁で受け入れに消極的

四国遍路で巡る英国出身のニーブさん。宿泊先はスマホのアプリで探すという（香川県さぬき市の第八十八番札所・大窪寺で）

　四国八十八か所霊場を巡礼する四国遍路で、急増する外国人のお遍路さんを受け入れる宿泊施設が不足している。遍路宿は高齢の経営者が多く、言葉の壁から受け入れに消極的な事情もある。外国人と宿を仲介する仕組みの整備などが課題となっている。（高松総局　黒川絵理）

テント寝泊まり

　「山も川も全部がフレッシュで、すばらしい体験だった」。４～６月にすべての札所を回り、「 結願 （けちがん）」を達成したイギリス出身のトーマス・ニーブさん（３０）は、そう魅力を語った。

　道中に欠かせなかったのが、外国人のお遍路さん向けアプリだ。その日の目標である寺の参拝を終えると、アプリでテントを張れるキャンプ場を探したという。テントと寝袋を持参し、リュックを背負って移動。雨の日はアプリで宿泊施設を探したが、満室で泊まれなかったこともあった。

　ニーブさんは「安く泊まれる宿泊施設がもっとできればいいのに」と話した。

「空白地域」も

　近年、世界的な旅行ガイド本や雑誌が四国遍路を特集し、外国人が増えている。

　欧米や豪州では、自然や異文化体験を重視するアドベンチャートラベル（ＡＴ）と呼ばれる体験型観光が人気で、四国遍路もその一つと位置付けられている。

　第十一番札所・藤井寺（徳島県吉野川市）近くの休憩所に立ち寄った外国人は２０２３年、１５４３人でコロナ禍前の１９年の約１・８倍に増えた。全体の４割超を占める。

　宿探しは切実な問題だ。四国運輸局が実証事業として２３～２４年に設けた、外国人向け相談センターに寄せられた相談７２０件のうち宿泊関係が約３割。「毎晩、予約に何時間も費やしている」などの訴えが相次いだ。

　外国人向けガイド本「Ｓｈｉｋｏｋｕ　Ｊａｐａｎ　８８　Ｒｏｕｔｅ　Ｇｕｉｄｅ」の２３年版で紹介する宿は６１７軒で、２０年版（６８７軒）から７０軒減少。掲載されている宿が全くない「空白地域」も目立つ。

　編集する松下直行さん（６３）によると、宿の経営者は兼業が多く早朝に出発するお遍路さんの対応など負担が大きい。高齢の経営者が細々と続けてきたが、コロナ禍で休廃業が相次いだ。

　「英語が話せず、意思疎通が難しい」と、海外向けガイド本への掲載を望まない宿も少なくないという。連絡なく宿泊先に現れない無断キャンセルも問題だ。山間部で公衆無線ＬＡＮを見つけられず、予定変更を伝えられない外国人もいるとみられる。

　松下さんは「外国人と宿を仲介する体制を充実させたり、小規模なキャンプ場を各地に整備したりするべきでは」と提案する。

翻訳アプリで

　受け入れる取り組みも進みつつある。藤井寺の門前には２３年１２月、外国人を想定した宿がオープンした。相部屋、シャワーのみの簡素なしつらえで、経営する増田広信さん（７５）は翻訳アプリで会話する。「海外からのお遍路さんの経済効果は大きい。ストレスなく巡礼する手助けになれば」と話した。

　第八十七番札所・長尾寺（香川県さぬき市）の門前にある旅館「あづまや」は、高須英美子さん（８０）の体調不良で休館中だが、高須さんは「外国人のお遍路さんが『ママ』と慕ってくれるのはありがたい。体調が戻ったら、再開して多くの人を迎えたい」と話した。

自然や異文化の「体験型」人気

　自然や文化を体験する観光は外国人の人気を集めている。政府は、アドベンチャートラベル（ＡＴ）で地方への誘客を図っている。

　政府観光局によると、ＡＴは一般的な観光旅行よりも現地での長期滞在が見込まれ、消費額や地域への経済効果が大きいという。

　世界遺産・熊野古道では、和歌山県田辺市の観光団体が昨年度実施したツアーの宿泊客約６万人の８割は海外客だった。中山道の宿場町・ 馬籠 （まごめ）（岐阜）と、 妻籠 （つまご）（長野）をつなぐ峠越えも、石畳の道などが「旅の情緒を味わえる」と評判だ。

　◆四国遍路＝弘法大師空海（７７４～８３５年）が修行したと伝わり、「札所（ふだしょ）」と呼ばれる寺々の「四国八十八か所霊場」を巡礼する。行程は四国１周約１４００キロに及ぶ。四国４県や地元経済団体は世界遺産登録を目指している。