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「低山」登りがブーム、健康にも良い…下山時の転倒などに注意

読売新聞 / 2024年9月14日 5時0分

 英国の登山家ジョージ・マロリー(1886~1924年)は、人類未踏峰のエベレスト(8848メートル)を目指す理由を問われ、「そこにあるからだ」と答えたという。国内でいま“低山”に登るのがブームになっている。さほど高くも険しくもない。そこかしこにある低山の何が魅力となっているのか。

「酒場詩人」の番組 火付け役

 8月中旬、神奈川県山北町ににある大野山(723メートル)に向かった。JR御殿場線・谷峨駅から徒歩で登山口へ。登山道は傾斜も緩く、歩きやすい。

 次第に草原が広がり、展望が開けてきた。登り始めて約1時間半で山頂に到着。周辺は牧場になっていて、見晴らしもいい。眼下には深緑色をたたえた丹沢湖。国土交通省の「関東の富士見百景」に選定されている富士山(静岡・山梨、3776メートル)の雄姿も望めるはずだったが、この日はあいにくの曇り空だった。

 初めて大野山を登ったという東京都足立区の会社員(57)は「富士山に登るための練習で来た。交通の便が良く、登りやすいのが気に入った」と息を弾ませていた。

 低山に登る人はじわりと増えている。400万人以上が利用する登山用地図アプリ「YAMAP」の運営会社ヤマップ(福岡市)が、今年のゴールデンウィーク(4月27日~5月6日)に利用者が登った山を調べたところ、標高1000メートル未満が51.1%に上り、2019年(46.4%)から5ポイント近く増えた。

 低山が注目を集めるきっかけとなったのが、20年に始まったNHKの人気番組「にっぽん百低山」。酒場詩人の吉田類さんが各地の低山を巡り、その土地の暮らしや伝説を発掘していくのがコンセプトだ。「低山は気軽に登れるだけでなく、人里に近いため歴史や文化に触れる楽しみもある」と番組担当者。地元の「おらが山」への愛着も喚起され、低山全体への興味・関心を底上げしているとみる。

 「コロナ禍もブームを後押しした」と語るのは、1930年創刊の山岳雑誌「山と渓谷」(山と渓谷社)の五十嵐雅人編集長。県境を越えた移動が制限された影響で、日本アルプスなどの登山客は激減したが、「ストレス発散に」と近場の低山に足を向ける人が増えたという。

 「山と渓谷」は2021年11月号で、創刊後初めて低山を特集。24年11月号では、初となる「日本百低山」を選定する。標高1200メートル以下を基準にしており、五十嵐編集長は「『日本百名山』のような新たな指標になれば」と期待する。

 人気の背景には、高齢化の影響もあるようだ。日本山岳ガイド協会の武川俊二理事長は「高山に登っていた『団塊の世代』が、70歳代を迎えて体力的にきつくなり、低山に目を向けるようになった」とみる。

 低山を歩くのは健康にも良いという。山本正嘉・鹿屋体育大名誉教授が、佐賀市の 金立 きんりゅう山(502メートル)に毎週登っている56~83歳の126人を調べたところ、60歳以上の標準に比べ、高血圧の人は3分の1、糖尿病の人は9分の1だった。山本さんは「月に1度、高い山に登るより、毎週低い山に登る方がよほど健康になる」と話す。

 とはいえ注意も必要だ。警察庁によると、昨年の山岳遭難3126件のうち、最多の長野県(302件)に続いて多かったのが、低山が大半の東京都(214件)だった。八王子市の高尾山(599メートル)での遭難者は133人に上った。

 山本さんによると、日本の低山は麓でも 急峻 きゅうしゅんな所が多く、特に疲れがたまった下山時に転倒したり、滑落したりする危険が大きいという。山本さんは「登山には筋力も必要。自宅などでも筋トレをして、足腰を鍛えてほしい」と呼びかけている。

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