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受刑者に「さん」付け、刑務官の「先生」呼びやめ号令行進も廃止…社会復帰重視で刑務所改革進む

読売新聞 / 2024年9月17日 8時0分

規律秩序維持 課題

 全国の刑務所で受刑者の処遇の見直しが進められている。号令に合わせて行進させるのをやめ、受刑者を「さん」付けで呼ぶなど言葉遣いも改めた。来年6月に控えた拘禁刑の導入や、受刑者への暴行問題を受けた対応だが、規律秩序をどう維持するかなど課題もある。

視野広く

 今月2日、約1700人を収容する府中刑務所(東京都府中市)。刑務官が「前へ進め」と命じると、受刑者約40人が2列で行進を始めた。歩くペースはそれぞれで、手足の動きもそろっていない。刑務作業をしていた工場から数十メートル離れた入浴場の前に着くと、刑務官が「全体止まれ」と声をかけた。

 同刑務所では従来、受刑者が集団行進する際は「手の角度は前に60度、後ろに30度」と決まっていた。刑務官が大声で「左、左、左、右」と号令をかけ、全員が足を合わせて移動していたが、3月から運用を改めた。

 覚醒剤取締法違反で服役中の男性受刑者(51)は「前はロボット状態だった。今は足の悪い人のために少し歩幅を小さくしようとか考えるようになった」と話す。

 同刑務所の鈴木敏之・次席矯正処遇官(45)は「他の受刑者とは違う動きに気付きにくくなった」とする一方、「これまでは歩調が合っているかばかり注視していたが、広い視野で受刑者の様子を見られるようになったという声もある」と語る。

人権配慮

 号令を伴う集団行進は、明治期に西欧の軍隊行進にならって導入されたといわれる。大勢の受刑者をまとまって移動させることで逃走などを防ぐ目的がある。

 一方、人権重視の考え方が浸透し、2006~07年には、受刑者の人権に配慮する規定を盛り込んだ刑事収容施設法が施行。22年には、社会復帰や再犯防止に力点を置き、「拘禁刑」創設を盛り込んだ改正刑法が成立した。

 さらに、名古屋刑務所の刑務官による受刑者への暴行問題が同年に発覚。法務省の第三者委員会が「組織風土の変革」を提言したことを受け、刑務所内の処遇を見直すことになった。

 同省は3月から、府中を含む16か所の刑務所で、号令に合わせた行進の廃止を試行。大きなトラブルはなかったとして全ての刑事施設174か所で今年度中に廃止することを決めた。

 このほかにも、今年2月から、ガリ(散髪)などの隠語を廃止。4月からは、全受刑者を「さん」付けで呼ぶなど言葉遣いも改めた。今後は「余暇時間中に室内の壁にもたれない」といった処遇も見直しを検討している。

 同省幹部は「集団を管理する上で必要最低限の動作は残すが、社会復帰を重視する考え方を踏まえ、実社会では行わないようなものは見直す」と話す。

トラブルリスク

 処遇の見直しにあたって、規律秩序とのバランスをどう図るかが課題となる。

 全国の刑事施設に収容されている受刑者は22年末時点で約4万人。集団での管理が求められる中、規律が緩みすぎると、受刑者がケンカなどのトラブルを起こしたり、逃走を図ったりするリスクも生じかねない。

 中島学・福山大教授(刑事政策)は「拘禁刑の下で再犯防止や更生を促すためには、社会復帰後の自立を見据えることが必要で、より社会に近い環境で処遇することが大切」と指摘。「規律秩序を保つことは極めて重要で、受刑者の性格や年齢など特性に応じて緩和の程度に差をつける工夫も必要だ」と話している。

◆拘禁刑=更生のために必要な作業をさせたり、指導を行ったりする刑。従来の「懲らしめ」ではなく「立ち直り」を重視し、懲役刑と禁錮刑は廃止される。

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