パリ五輪「金」アリサ・トルー、Ｘゲームズ千葉大会は「特別」…母は岐阜出身の「スピンの女王」

パリ五輪のスケートボード女子パークで金メダルを獲得したアリサ・トルー（中央）と銀メダルの開心那（左）、銅メダルのスカイ・ブラウン

　アクションスポーツの祭典「Ｘ　Ｇａｍｅｓ　Ｃｈｉｂａ　２０２４」（Ｘゲームズ千葉大会）が千葉市の幕張メッセで９月２０～２２日に行われる。スケートボード女子パークには、パリ五輪金メダリストで１４歳のアリサ・トルー（豪）が参戦。この１年余り女子の競技界を席巻してきた「スピン（回転技）の女王」が、母の母国・日本で成長した姿を披露する。（大阪運動部　井上敬雄）

連戦連勝で駆けあがる

　注目を集めたのは昨夏のことだ。７月のＸゲームズ米国大会で、複数の起伏を組み合わせたコースを滑る「パーク」、ハーフパイプのような半円筒形のコースを滑る非五輪種目「バート」でいずれも優勝。１３歳２か月でＸゲームズ２冠を果たし、スノーボード界最大のスターだったショーン・ホワイト（米）が保持していた１６歳の最年少記録を大幅に塗り替えた。

　今年に入っても国際大会で連戦連勝。Ｘゲームズ米国大会で再び２冠を達成し、８月のパリ五輪で頂点へ駆け上がった。豪州史上最年少の五輪金メダリストとなり、「初めての五輪で私がそんな人になるなんて。素晴らしい経験ができた」と興奮を隠せなかった。

　原動力は「本当に大好きでよく練習している」というエアと回転技の精度。２０２３年にはバートの大会で、空中で横２回転する「 ７２０ （セブントゥウェンティー）」に女子スケーターとして初めて成功した。今年は２回転半する「 ９００ （ナインハンドレッド）」も決めた。これも女子で世界初の快挙だった。

　スピンする際にうまく体を丸めて鋭く回るのが特長で、パークでも横１回転半に縦軸の回転を加えた「マックツイスト」をはじめ複数の大技を惜しみなく繰り出す。「今まで誰もなしえたなかったトリックをやりたい」という貪欲な姿勢、「スケボーを楽しむということを大事にやっていく」という自然体が女王の座に結びついている。

女王の母は岐阜出身

　豪州生まれで現在はゴールドコースト在住。母は日本人で、「 愛理沙 （ありさ）」の漢字名もある。スケボーで忙しくなる前は、毎年のように母の出身地である岐阜を訪れていたといい、「日本人という自覚も持っている。日本の文化もすごく大好きだし、なかなか難しいけど日本語をしゃべりたい、理解したい」と話す。取材の場では「スケートボード大好き」「かわいい」と日本語で対応する一幕もある。

　７～８歳からスケボーを本格的に始め、今はアクションスポーツを専門に学ぶ教育機関に通う日々。「普段は朝から学校に行って勉強。昼食を挟んで午後は約４時間スケボーの練習」という毎日だ。

　幼少期に長距離走で培ったスタミナが豊富なこともあり、長時間の練習も苦にしない。学校が終わっても、そのまま練習したり、友達と他の練習場に行ったりすることも。「スケボーを始めたばかりの頃は周りには男の子しかいなかったけど、（東京）五輪で女の子もすごい脚光を浴び、女子スケーターが増えてきた。友達もたくさんできるし、遠征にも行けてとても楽しい」と充実している。

アヒルが欲しかったけれど…

　競技では女王の貫禄も出てきたが、素顔は１０代半ばらしく 天真爛漫 （てんしんらんまん）。パリ五輪では、優勝すればペットのアヒルを飼うことを両親と約束していたといい、金メダル獲得後、母に向けた最初の言葉が「アヒル飼ってもいい？」だったことも話題に。「３羽ほしいとお願いしていたけど、今は転戦ばかりで世話をする時間がないので、もうちょっと時間ができたら考えようかな」と話す。

　五輪後も勢いは衰えることなく、９月にイタリアで行われた世界選手権のバートで優勝し、２年連続出場となるＸゲームズ千葉大会に乗り込む。ブレイク直前だった昨年はＸゲームズ初参戦で４位に食い込んだ。「去年は１３歳の誕生日に開かれた特別な大会だった。決勝は雨で中止になったけど、順位も含めてあの大会が大きなターニングポイントになった」と飛躍のきっかけをつかんだ舞台を心待ちにしている。

　「すごく楽しそうなコースで、今年も楽しみ」。親戚も駆けつけ、大会後には久々に岐阜を訪れる予定だ。さらなる勲章を携えて、 凱旋 （がいせん）する日が近づいている。