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拡大する世界のアート市場、日本は投資目的で失速した「失われた30年」乗り越え発信力強化へ

読売新聞 / 2024年9月18日 5時0分

 現代美術作品を展示、販売する見本市「国際アートフェア」が、脚光を浴びている。世界のアート市場は近年順調に拡大し、美術の制作現場だけでなく各国の経済も活気づけているためだ。欧米やアジア諸国と比べ、日本は世界的な影響力のあるフェアの整備が課題で、官民挙げた取り組みが進んでいる。

バブル崩壊後「失われた30年」

 国際アートフェアは、世界各地の画廊が期間限定で一つの会場に集まり、注目のアーティストたちの作品を紹介し、販売する場だ。美術の愛好者が新作を購入する場合、日本では画廊や百貨店に行くのが一般的だが、アートフェアは一度に数多くの画廊の作品を見比べて吟味できる。著名なコレクターやギャラリスト、美術館長らが集う情報交換の場にもなっている。

 1970年代以降に海外で有力なフェアが発展してきた。代表的なフェアに、スイスや米国、香港、フランスで開催される「アートバーゼル」や英国、米国、韓国で開かれる「フリーズ」がある。

 一方、日本はバブル経済期に企業などが投資目的で美術品を多く購入したが、その後の不況で失速した経験も持つ。「失われた30年」とも呼ばれる時代を乗り越えてアート市場のアジアにおける拠点となり、日本アートの国際発信力強化を模索する時に来ている。

 これらの状況を受け国内でも取り組みが始まっている。今夏、横浜市で2回目の「Tokyo Gendai」と呼ばれる国際アートフェアが開催された。

 会場となったパシフィコ横浜の展示ホールには、世界約40か国・地域からコレクターなどアート関係者が集い、華やかな雰囲気に包まれた。

 18か国から69画廊が出展し、海外画廊が37と過半数を占めた。中でも世界4大メガギャラリーの一角「ペース ギャラリー」が初出展し話題を呼んだ。ペースは同時期に東京・麻布台ヒルズに日本初のギャラリーも開いた。

 政府が関税法に基づく通達の改正で「保税ルール」の緩和を進め、日本のアートフェアに海外画廊が出展しやすくなったことが奏功した。海外の美術品を商業目的で日本に持ち込む際、従来は関税や消費税を先払いする必要があった。だが「保税地域」になると税金が一時留保され、海外から高額作品を持ち込みやすくなる。「Tokyo Gendai」は2年連続で、会場全体が保税地域の資格を得た。

 文化庁も海外のアートフェアに日本の画廊が出展したり、海外で日本作家が展覧会を開いたりする際の支援を行っている。

 日本には、草間弥生さんや奈良 美智 よしともさんをはじめ世界的に活躍するアーティストが多くいる。今後、中堅や若手芸術家の評価を高めていくためには、海外への体系的発信が鍵となる。

 香港の美術館「M+(エムプラス)」や韓国の「国立現代美術館」に並ぶほどの国際的影響力を持つ現代アートの国立美術館は日本にはない。自国作家の作品を体系的に評価・保存していく基盤が整わなければ、グローバル化する市場の中で、作家が物珍しさから一時的に「消費」される事態にもなりかねない。

 日本とアジアの作家を中心に紹介してきたミヅマアートギャラリーの 三潴 みづま末雄エグゼクティブ・ディレクターは「海外に『攻めて行く』気概が今こそ求められている。個人戦ではなく団体戦で、日本の現代アートをかたまりとして見せていくことが肝要」と指摘している。

 自国作品の魅力を伝えていくため、国際アートフェアの整備と同時に、国立美術館のあり方や既存の美術館のネットワーク再構築も含めた今後の体制作りが注目される。

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