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自民党総裁選で注目集める「労働市場改革」 企業担当者は期待「自信持って積極的に押して」

J-CASTニュース / 2024年9月17日 18時8分

自民党総裁選で注目集める「労働市場改革」 企業担当者は期待「自信持って積極的に押して」

小泉進次郎氏。自民党総裁選、候補者が討論会(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

9候補を擁して盛り上がりを見せる自民党総裁選。ここに突如飛び出したのが「労働市場改革」という論点だ。その趣旨は、日本経済の生産性向上や賃上げを進めるために必要な政策とのことである。

SNSでは「首切り自由化か」などと反発が相次いでいるが、働く人にとって本当に不利なものになるのだろうか。総裁選の議論をまとめるとともに、企業の実務担当者の意見を聞いた。

小泉氏「人員整理が認められにくい状況を変える」

きっかけは2024年9月6日、小泉進次郎氏が出馬表明時に「(整理解雇の)4要件が満たされないと人員整理が認められにくい状況を変えていく」と述べたことだ。

整理解雇とは、いわゆるリストラのこと。会社都合で行うリストラは「人員削減の必要性」「解雇回避努力」「人員選定の合理性」「解雇手続の相当性」があるのか、裁判所が厳格に判断する判例が確立されている。

これを見直すと、企業はリストラをしやすくなる。これにはSNSやマスコミで反発が起こり、小泉氏は13日の「自民党総裁選2024」で「解雇の自由化を言う人は私を含め誰もいない」と批判に配慮しつつ、「このままでは正規、非正規の格差の解消是正につながらない」と問題提起を続けている。

大手企業の人事部に勤めるAさんはYouTubeで共同記者会見を見て、小泉氏の表現はうまくなかったとしつつ、着眼点は悪くないのでもっと自信を積極的に押していった方がよかった、と感じたという。

「新聞やテレビが『解雇規制緩和』『解雇自由化』とあおるのはミスリードですね。日本の解雇規制は先進国の中でも比較的厳しくないとされ、国際的な調査でもそのような結果が出ている。しかし実態は『実質的に解雇できない状況』になっているというのが、企業実務の見方です」

Aさんは、もしも日本の解雇規制が本当に厳しくないのならば「セカンドキャリア支援室などという名の『追い出し部屋』なんか無理に作る必要がない」と指摘し、「解雇できないからハラスメントみたいなことをやらざるを得ないんじゃないですか」と表情を曇らせる。

「正社員保護の常識は戦後の慣行」

日本の法制度では確かに解雇は可能だが、それは実定法上の話であり、労働者側から不当解雇を訴えられれば会社が負ける確率が低くないとされる。勝訴した社員は復職し、会社は解雇日から判決確定日までの賃金をさかのぼって支払わなければならない。

「ようするに、会社には解雇権があるけど、実際に解雇しようとすると裁判所が『解雇権を濫用するな』といって不当解雇の判決を出す、ということです。会社の解雇が『合理的理由を欠き、社会通念上相当性を欠く場合』に当てはまるというんですが、会社側から見れば、小泉氏も触れた4要件はハードルが高すぎるんですね」

たとえば、会社が将来的な業績予測を踏まえて事前に余剰人員を解雇しようと考えても、実際にはできない。解雇できるのは、業績悪化等の経営上の理由がなければならない。会社がいよいよ傾いて経営危機に陥らないと、リストラはできないのだ。

しかし景気がよく業績がいいうちに解雇した方が、再就職の道も多いし、会社としても手厚いケアができる余裕がある。人手不足の中で人の取り合いが起きて成長分野に人員が移動すれば、日本経済全体の活力が強くなるというわけだ。

「裁判所は『正社員は長期的な雇用を期待することが一般的』ということを前提としているといわれますが、そんな社会的常識は戦後の慣行ですよね。将来的に『正社員でも高給を求めて、会社を転々とするのが一般的』に変わることだってありうるんじゃないですか」

リストラの際に非正規雇用を先に切る理由も、裁判所が正社員の権利を過剰に保護しているから、というのがAさんの意見だ。小泉氏が「正規、非正規の格差の解消是正」を指摘しているのは、こういう意味だったようである。

金銭解雇なら「6年働けば補償金は120万円以上に」

一方、中小企業では大企業と異なり、解雇される社員は少なくないのが実態だ。大企業と違って出向先や配置転換先を確保できず、「追い出し部屋」を作る余裕もない。退職金がない場合も多く、泣き寝入りするしかない。

この問題に総裁選で「金銭解雇(解雇時の金銭補償)」という論点を投げかけたのが河野太郎氏だ。5日の記者会見では「一方的に解雇された時に金銭補償するルールがあれば、次の仕事に余裕を持てる」と述べている。

金銭解雇とは、不当解雇の争いを避けるため、会社が労働者に金銭を支払って労働契約の解消を図る制度だ。

2016年に厚生労働省の有識者検討会が不当解雇の金銭解決の分析を行ったところ、企業が支払った解決金の平均は、月収の0.84倍に勤続年数をかけ合わせた金額になったという。

これを仮に「金銭解雇」として制度化した場合、月給25万円、6年の勤務後にリストラされたときの補償金は126万円となる。

中小ベンチャーでの勤務経験もあるAさんは「自分自身も含めて、働く人の視点でも労働市場改革はメリットになりうる」とし、次のように述べる。

「もともと雇用が不安定な中小企業においては、社員側のメリットは大きく、反対する理由はないと思います。一方、大企業の正社員にとっては不安要素になりますね。でも、補償金は大きくなりますし、『追い出し部屋』もなくなります。なにより、会社は正社員の雇用をしやすくなり、非正規雇用が調整弁扱いされずに済むんじゃないですかね」

雇用が流動化すれば、給与水準を上げざるを得なくなる?

小泉氏は14日の討論会で、4要件を緩和する代わりに、大企業に対して「リスキリング(学び直し)や再就職支援を義務付ける」と説明。これにより、成長産業への労働力の円滑な移転を進めるべきと主張している。

ただし、この考えに対しては、従来の配置転換および再教育と変わらないのではないか、という指摘もあり、真意がうかがえないところがある。

これらの政策が賃上げにつながるかどうかについて、Aさんは「一般論として雇用が流動化すれば、会社は優秀な人材をつなぎとめておくために、いまより給与水準を上げざるをえなくなる可能性もあるのでは」とし、「すぐには実現しなくても、小泉さんや河野さんには反発を恐れず労働市場に問題提起してもらいたい」と述べている。

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