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パート女性の大問題、社会保険加入拡大で「扶養枠」「年収の壁」どうなる? メリット・デメリットに応じた働き方とは

J-CASTニュース / 2024年9月18日 12時10分

パート女性の大問題、社会保険加入拡大で「扶養枠」「年収の壁」どうなる? メリット・デメリットに応じた働き方とは

パートで働くと収入の上限を意識する(写真はイメージ)

2024年10月から従業員51人以上の企業(従来は101人以上)で週20時間以上働くパートやアルバイトも、社会保険への加入が必要となる。

そうなると、「年収の壁」を気にせず働ける一方、扶養から外れて税負担が増える心配もある。

働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年9月3日に発表した「社会保険適用の従業員規模に関する意識調査」では、社会保険適用の拡大に「賛成」が「反対」の2倍となった。

働く女性にメリットとデメリットがある今回の動き。専門家にどう働けばメリットを生かせるかを聞いた。

メリットは将来の収入増、デメリットは現在の収入減

社会保険の加入対象の拡大は、労働人口の減少や少子高齢化、またワークスタイルが多様化する現状に合わせ、不公平がない社会保険事業を進めるために政府が段階的に進めてきた。

社会保険が適用されれば厚生年金に加入するため、「年収の壁」が取り払われる。収入の上限を意識せずに働き続けることができ、老後の収入も増える。しかし、社会保険料を納めなければならず、扶養から外れて税負担が増加する懸念もある。メリットとデメリットがあるわけだ。

しゅふJOB総研の調査(2024年7月25日~8月1日)は、同居家族のいる就労志向のある主婦・主夫層420人が対象。

まず、10月から社会保険適用の対象企業が51人以上に拡大されるのを知っていたかを聞くと、「知っていた」(63.8%)が6割を超え、関心の高さがうかがえた【図表1】。

対象企業が51人以上に拡大されると、仕事をする際の希望条件に影響があるかを聞くと、「影響はない」(39.3%)が最も多かったが、「今より給与を高くしたい」(22.9%)が2割以上おり、メリットを生かして収入増を考える人が一定数いることがわかった【図表2】。

現在、政府内では社会保険制度の適用範囲について、従業員数などの条件を完全に撤廃する論議が進められている。そのことをどう思うか聞くと、「撤廃したほうがいい」(28.6%)が、「撤廃しないほうがいい」(14.3%)の2倍だった【図表3】。

扶養内では教育費や老後が不安、扶養外では働き損が不安

フリーコメントでは賛否両論が相次いだ。まず、適用拡大に反対の意見では、こんな声が代表的だ。

「扶養の関係があるため変に触らないでほしい」(40代:パート/アルバイト)
「家庭の都合上、働けない人のことを考えていない」(50代:パート/アルバイト)
「扶養内の人は働き控えが起き、企業は新たな人材確保のため人件費・求人広告等の費用が上がり、結局犠牲になるのは中小企業なのではないのか」(40代:正社員)
「小規模の会社にとっては、保険加入を義務付けされることが困難かも知れないので、事業者が選択する権利があったほうがいいと思う」(50代:派遣社員)
「フルタイムで働くパート従業員や、たくさん働きたい人にはよい制度かもしれないが、もともと扶養範囲内で働きたい場合は素直に喜べない」(50代:パート/アルバイト)
「将来年金が貰えるかも分からないのに、家計がギリギリで貯蓄も出来ない中、社会保険で手取りを取られても将来安心できるのか不安しかない (40代:フリー/自営業)
「小さな中小企業にも福利厚生を整えろということでしょうが、この不景気で大変なんじゃないですか?」(60代:パート/アルバイト)

このように、扶養の範囲内で働きたい人や、中小企業の負担増のことを考慮するべきだという考えだ。

一方、賛成の立場からこんな意見が聞かれた。

「配偶者控除をやめて、成人はみんな社会保険か国民保険に入ればいい」(50代:パート/アルバイト)
「考え方は人それぞれだと思いますが、いま保険料の負担が生じても年金として受け取る額が増えるなら仕方ないと思います」(50代:パート/アルバイト)
「今まで扶養内におさまるように仕事をセーブすることが多かったので、社会保険適用拡大にもっと大きなメリットがあれば賛成したい」(30代: パート/アルバイト)
「健康保険・厚生年金を自身でかけることのメリットを、もっと周知したほうがよい」(50代:今は働いていない)

などと働き方の条件が広がることや、将来の安心を強調する意見が目立った。

どちらとも決めかねている人からは、こんな意見が寄せられた。

「社会保険の適用を拡大されると、扶養外でかなり働かなければ損をするため、育児をしながらどれだけ働けるか不安。扶養内では、今後の教育費や老後が不安。どうするか、迷う(40代:契約社員)

扶養枠や年収の壁を意識している人がとても多い

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――調査では、社会保険の適用拡大を「知っていた」が約64%。また、仕事する際の希望条件について、約23%が「今より給与を高くしたい」と答えました。この結果についてどう評価しますか。

川上敬太郎さん 社会保険加入をめぐる一部の条件変更であるにもかかわらず、6割以上の人が「知っていた」ことから、扶養枠や年収の壁を意識している人が多い主婦・主夫層の関心の高さを感じました。

仕事する際の希望条件については「影響はない」との答えが4割弱で最も多かったものの、「今より給与を高くしたい」が2割強、「今より労働時間を増やしたい」「今より労働時間を減らしたい」も1割前後あり、影響を受ける人が一定数いると感じました。

――社会保険加入をめぐる条件が拡大されることについて、働く女性の立場からメリットとデメリットをどう考えていますか。

川上敬太郎さん 収入条件などは満たしているのに、職場が条件を満たしていないので社会保険に入れなかった、という人には望ましいことだと思います。条件を満たすと厚生年金に入ることになるので、国民年金にだけ加入するより将来受けとれる年金額が増えるメリットがあります。

一方、社会保険に入りたくない人は、収入や勤務時間を調整するなどして条件を満たさないようにしなければなりません。また、社会保険に加入すると保険料の支払いが生じて手取りが減る「手取り額の崖」が発生します。生活のために少しでも収入を増やすことを最優先で考えている人にとって、いわゆる「働き損」が生じるのはデメリットです。

メリット生かすには「時給の高い仕事」か「勤務時間を増やす」

――メリットを活用して働くにはどのようにすればいいでしょうか。アドバイスをお願いします。

川上敬太郎さん 適用企業の拡大は社会保険加入を希望している人にとってメリットですが、働き損が生じるデメリットも同時に生じる可能性があります。働き損にならないよう収入を増やすには大きく2つ方法があります。

1つは、時給単価の高い仕事に就くこと。まだ多いとは言えないものの、世の中には時短勤務ができて、かつ時給2000円を超える仕事が徐々に増えてきています。人事や法務、マーケティングといった専門的なスキルや、過去の経験を活かしてそれらの仕事に就くことができれば、収入を増やしつつこれまで培ってきたキャリアを継続・発展させていくことができます。

もう1つは、勤務時間を増やすこと。その場合は家族の協力を仰ぎながら、家事などによる「時間制約の壁」を乗り越える必要があります。また、在宅勤務に切り替えることができるようであれば、通勤時間に費やしていた分の時間を勤務に充てられます。

――なるほど。デメリットを受ける人はどうしたらよいでしょうか。こちらもアドバイスをお願いします。

川上敬太郎さん 社会保険に加入したくない場合は、収入額を下げるために勤務時間を調整するなどの対応が必要です。また、職場側も社会保険費用の支払いを抑えたいと考えていれば、社会保険加入を回避するよう促されるかもしれません。

働き損にならないよう収入を増やす場合も含めて、いまの職場で望ましい働き方が実現しづらければ、転職することも視野に入れる必要があると思います。

それぞれの異なる事情に、できる限り寄り添いながら改革を

――フリーコメントでは、さまざまな意見が出ていますね。川上さんはどのコメントが響きましたか。

川上敬太郎さん 「結果的に私たちにメリットがあるのかわからない」というコメントが、実情を如実に表しているように感じます。社会保険加入によるメリットとデメリットがわかりづらいだけでなく、働き損が発生する年収の壁の種類が複数あるなど、何をどこまですればよいのか、どう振る舞えばよいのかの加減がわかりにくいのではないでしょうか。

社会保険の適用拡大について、単に政府が保険料をたくさん徴収できるようにするための施策だと受けとっている人もいます。複雑すぎる制度をシンプルにすることと、社会保険加入のメリットとデメリットを誰もが理解しやすくなるよう丁寧に周知する必要があると思います。

――政府内には、2025年以降に社会保険制度の適用範囲を完全撤廃する案が出ています。川上さんは、ズバリ、この問題をどうすべきだと考えていますか。

川上敬太郎さん 調査では、「撤廃したほうがいい」という意見が「撤廃しないほうがいい」という意見の2倍でした。ただ、6割近くの人が「どちらとも言えない」と回答しています。いまの制度のあり方でよいのかよくわからず、答えようがない人が多いと感じます。

働き損の発生を回避すべく応急措置として「年収の壁・支援強化パッケージ」が行われていますが、複雑な制度にさらにルールを加えたため、より複雑になってしまっている面があります。

2025年に行われる予定の年金改革で、シンプルな制度へと改める必要があると思います。そして、社会保険制度は既に人々の生活や人生設計の中にガッチリ組み込まれているだけに、すぐに変えることと数十年単位の長いスパンで変えていくこととを整理して対応していく必要があるのではないでしょうか。

――今回の調査で、特に強調しておきたいことがありますか。

川上敬太郎さん そもそも、扶養枠自体に対する意見が分かれています。不公平感を抱く人もいれば、絶対に扶養枠をなくしてほしくない人もいます。また、家庭の制約を受けながらもフルタイムで働いて税金や社会保険費用を支払っている人もいれば、体調やご家庭の事情で働きたくても働けない人もいます。

それら意見の違いや、置かれている状況が個々に異なることを踏まえると、誰もがスッキリと納得する制度にすることは不可能だと感じます。しかし、いまの社会保険制度に改善の余地があることは間違いありません。

社会全体にとって最適な制度へと改善しつつ、個々に異なる事情に対してはできる限り寄り添いながら、今後のあり方について丁寧に説明していくことが大切なのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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