企業が次期総理に求める経済政策 「岸田政権下で大企業ばかり恩恵」と中小企業が怒る「後始末」こそ最重要【自民党総裁選】
J-CASTニュース / 2024年9月25日 19時19分
自民党総裁選に立候補した9人。候補者による討論会で(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
事実上次期総理を選ぶ自民党総裁選挙が2024年9月27日に投開票される。9人が立候補、乱立状態だが、企業は総理にどんな経済政策を求めているのか。
そんななか、帝国データバンクが9月17日、「企業が新政権に求める経済関連政策に関するアンケート」を発表した。
「中小企業支援」「物価高対策」「個人消費拡大」の上位に並んだが、大企業と中小企業との間で、大きな違いが見られた。いったいどういうことか。調査担当者に聞いた。
企業の希望は「中小企業支援」「物価高対策」「個人消費拡大策」「個人向け減税」が4本柱
帝国データバンクの調査(2024年9月6日~10日)は、全国1996社が対象。
新政権に求める経済関連政策(複数回答)では、「中小企業向け支援策の拡充」「物価高対策」「個人消費の拡大策」「個人向け減税」がいずれも4割台で上位に並んだ【図表1】。
しかし、規模別にみると、大企業と中小企業では違いが際立つ結果となった【図表1】。
大企業では「人材確保・定着」や「賃上げ関連政策」が目立つ。特に「賃上げ促進」は中小企業より15ポイントも上回った。
一方で、中小企業では「中小企業への支援」や「法人向け減税」を求める企業が多く、大企業より10ポイント以上高い結果となった。
ちなみに、同社が9月13日に発表した「岸田政権による経済政策への評価の企業アンケート」では、「岸田政権の元では大企業は大きな利益をあげたが、中小企業は逆に厳しくなっている」といった厳しい声も聞かれた。
業界別にみると、建設業では「人手不足への対応」が高く、製造業、運輸・倉庫業では「価格転嫁対策」が目立つ。また、小売業では「個人消費の拡大策」に期待の声が多かった【図表2】。
フリーコメントでは、企業からこんな声が相次いだ。
「中小企業は雇用を維持するために賃上げをせざるを得ないが、粗利がないなかでは大変厳しい。中小企業をいかに盛り上げて成長につなげるかが重要で、その方向性と施策を示してほしい」(機械製造)
「消費税減税、省力化につながる機器やシステムの導入補助金、人手不足に対応するための諸制度の見直しをしてほしい。現在の税法がややこしすぎて、その割に効果ははっきりしない」(その他の卸売)
「価格転嫁の動きを広めないと中小零細企業はどんどん弱り、そのあおりを大企業も受け、経済は衰退する」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
「場当たり的な補助金や給付金ではなく、税金を投入する以上その効果の実証も踏まえて、実体経済に効果のある政策を考えてほしい」(飲食料品小売)
岸田政権下で「大企業が恩恵を受け、中小企業が逆に厳しくなった」理由
J‐CASTニュースBiz編集部は、帝国データバンク情報統括部の調査担当者に話を聞いた。
――調査からは、率直に言って、大企業は中小企業対策を優先順位が低いと考えているようにうかがえますが、いかがですか。
調査担当者 大企業にとって、「中小企業向け支援策の拡充」は自社への直接的な効果が期待できないため、どうしても中小企業との差が開いてしまいます。
しかし、大企業の各項目の順位をみると5番目に高い。対応策を通じて中小企業の業績向上につながれば、大企業にもメリットが生まれると考えられる。中小企業向け対策は優先順位が低いとは断言できないと考えます。
実際、大企業からは「新しい政権には、中小企業の元気が出る施策をお願いしたい」(機械・器具卸売)といった声も複数聞かれます。
――岸田政権下で「中小企業が逆に厳しくなった」という声が上がっている理由は何でしょうか。特に批判が強かった内容を説明してください。
調査担当者 中小企業からは「賃上げ促進」に関して批判の声が聞かれました。資金余力が小さい中小企業にとっては、賃上げの実施により経営が厳しくなったほか、賃上げができず大企業との賃金格差が開き、採用面でも格差が大きくなったといった意見があがりました。
また、岸田政権時代に開始した「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」といった制度による負担が大きいものとなった様子がうかがえました。岸田政権下で決定したものではありませんが、中小企業では人的リソースが少ない状況を考慮して、支援策を実施するべきとの意見があがっていました。
加えて、「円安」の急速な進行に対する対応策が不十分といった批判の声もありました。輸出を行う大企業では恩恵が大きい一方で、輸入品への依存度が高い中小企業にとってはマイナスの影響が大きく、価格転嫁が図れず、下請法関連対策も不十分であるといった意見が聞かれます。
ほかにも、過去最高益、株価最高値など、大企業の業績はよくなっていますが、中小企業はまだまだ厳しい環境が続いており、大企業に対する経済施策が優先されているように映る、との意見もありました。
大企業は「人手不足への対応」「雇用対策」の割合が中小企業より高い
――なるほど。「支援の拡充」を求める中小企業が多いですが、具体的にはどんな政策を次期政権に求めているのでしょうか。
調査担当者 下請け零細企業への支援の強化や金融支援策の実施が求められています。
また、中小企業でも無理なく賃上げを行えるような施策や大企業と中小企業間の格差是正対策を求める声もありました。企業からの生の声をあげると以下のように。
「下請け零細企業への支援の拡大ほか、そこで働く従業員の生活支援に力を入れてほしい」(電気機械製造)
「中小零細企業への金融支援策を希望」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
「中小企業の社会保険料を見直してほしい」(出版・印刷)
「零細企業には賃上げをする余力がない。むしろ大企業が下請け構造による単価引き下げを強要するなどして、ますます厳しい現状である。格差是正対策を期待する」(情報サービス)
「最低賃金をただ引き上げるようなことではなく、中小企業も無理なく賃上げを行えるような政策を即実行して欲しい(化学品卸売)
「中小企業倒産のリスク対策を実施してほしい」(建設)
「大企業の内部留保を減らす施策、中小企業の減税を実施してほしい」(飲食料品・飼料製造)
「中小企業に富を分配する政策を希望」(鉄鋼・非鉄・鉱業)
――新政権への要望が非常に多いですね。ところで、大企業と中小企業の違いが目立つ項目は「人手不足への対応」「雇用対策」「賃上げ促進」「デジタル化の推進」「科学技術・イノベーション推進」です。
これらは中小企業にとっても大事だと思いますが、なぜ大企業にだけ求める声が多いのでしょうか。
調査担当者 大企業は比較的資金余力が大きいため、法人向け減税など資金関連施策よりも、多くの企業で深刻化している人手不足問題の解決を優先してほしい状況にある。そのため、「人手不足への対応」や「雇用対策」の割合が中小企業より高い結果になったと思います。
「賃上げ促進」も同様の要因で、中小企業は賃上げをする余力が少ないことから、特に大企業における割合が中小企業を大きく上回りました。
「デジタル化の推進」や「科学技術・イノベーション推進」については、人手不足の解決策の一環として考える大企業もあるため、中小企業よりは割合が高くなっていると考えられます。
中小企業には「デジタル化」「イノベーション」より、目の前の危機対策が急務
――しかし、デジタル化を進めないと、中小企業もピンチですよね。
調査担当者 中小企業はとにかく事業を継続するために、目の前の問題解決に重きを置く企業が多いです。だから、何としても「中小企業向け支援策の拡充」を求める企業が多いと推測できます。
逆に「デジタル化の推進」や「科学技術・イノベーション推進」は経済全体および自社への効果が出るまでに時間がかかります。間接的な効果をもたらすことが多い施策と考えるため、優先順位が大企業と比べて低い結果になったと考えられます。
――それほど中小企業は、切羽詰まった状況に追い込まれているわけですね。現在、自民党総裁選で9人の候補の論戦が行われていますが、こうした企業側が求める経済政策が活発に論議されていると思いますか。
調査担当者 最も求められている「中小企業支援」については、取り組む意向を持つ候補者が複数いたほか、2番目に高い「物価高対策」も多くの候補者が言及していますので、政策が活発に議論されていると思います。
しかし、3番目に高い「個人消費の拡大」は、消費を直接的に促す政策ではなく、賃上げや投資促進を通じて消費を拡大させていくことが議論されています。どちらかといえば、中長期的な効果をもたらし、間接的に消費につながっていく政策が重視されている点が、中小企業が希望している政策との間に乖離があるように感じます。
4番目に高い「個人向け減税」も、財政健全化をより重視する傾向にあり、議論はされていない状況になっているようです。
――う~む。もっと議論を煮詰めてほしいですね。今回の調査で特に強調しておきたいことや、次期政権に望むことはありますか。
調査担当者 企業が新政権に求める経済政策について、「中小企業支援」が5割近くで、最も高くなっています。裾野が広く日本経済を支える中小企業への支援が重要と多くの企業経営者が考えているようです。
長らく実質賃金がマイナスで推移してきたことで、消費者の節約志向も続いています。個人消費がより活発に、消費マインドが回復していくことが重要になってくるでしょう。
人手不足対策、半導体、DXやAI、グリーンエネルギーといった技術革新を促すさらなる後押しも必要です。新政権には、物価と賃金がともに上昇する経済の好循環を実現できる環境を早く整備して、生産性と競争力を高める施策が求められます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
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