1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 社会
  4. 社会

射場に「10人立ち」できる弓道合宿所、37年の歴史に幕…栃木・那須町で幾多の強豪校受け入れる

読売新聞 / 2024年10月7日 8時59分

宿泊者のリストを手に当時を振り返る小谷桂進さん(右)とまゆみさん(栃木県那須町で)

 栃木県内では数少ない宿泊施設に弓道場を備えた那須町の合宿所「那須高原 藤樹山荘」が9月末で閉鎖した。37年にわたって東日本を中心に多くの弓道家たちに親しまれており、多くの惜しむ声が上がっている。閉幕を前に、藤樹山荘を経営する小谷桂進けいしんさん(67)と妻のまゆみさん(66)に思いを聞いた。(近藤龍)

 藤樹山荘は、那須町高久丙にあり、JR黒磯駅から車で約20分の場所に位置する合宿所。宿泊施設と食堂棟に加え、間口が14・4メートル、奥行きが8・1メートルの大規模な弓道場が併設されている。合宿所として利用する場合、50人程度が宿泊できる。

 弓道場は一度に10人が射場に立つ「10人立ち」が可能。照明を完備しており、夜間練習も可能で、これまで作新学院高校(宇都宮市)のほか、首都圏を中心に全国各地から多くの強豪校を受け入れてきた。

 藤樹山荘は1987年に、まゆみさんの父・内藤茂さん(故人)が開業した。2000年に桂進さんとまゆみさんが経営を引き継ぎ、夫婦二人三脚で営んできた。

 これまでの日々は楽しくもあり、厳しくもあった。

 都内高校の弓道部約60人を、4泊5日の日程で受け入れた時は、「一瞬も休む暇がなかった」と桂進さんは振り返る。3食を2人で作り、風呂場や施設の掃除などに駆け回った。常に立っている状態で限界に近かったという。

 それでも、ここまで続けられたのは、「訪れる子どもたちの成長を間近で見ることができたから」と桂進さんは話す。中高生は3年間、大学生は4年間。合宿シーズンが来る度に、成長した姿を見せてくれることがなによりうれしかったという。

 中には、学生時代に藤樹山荘を訪れた人が、他県で教員となり、弓道部の顧問として部員を連れて訪れることもあったという。桂進さんは「十数年という長い年月の中で、私たちのことを忘れないでいてくれたと思うと本当にうれしい。来てくれた子どもたちは、もう人生の仲間みたいな存在かな」と楽しそうに語る。

 その思いはまゆみさんも変わらない。食事の好き嫌いや味の好み。訪れた弓道部員たちのことを全てメモに残すほどの徹底ぶりだ。経営を引き継いでからは夫婦で弓道も始めた。

 しかし今年を最後に、宿の閉鎖を決定した。これまで3人の息子などの力を借りながらも、基本的には夫婦で切り盛りしてきたが、高齢となり2人で続けるのが体力的に厳しいことが理由だという。

 まゆみさんは「訪れた子どもたちや先生との思い出はかけがえのないもの。できれば今後も何らかの形で弓道に関わり、どこかでまた彼らに会えたら」と話す。桂進さんは「来年またシーズンが来たら、どっと悲しくなってしまうかも。今はただ『ありがとう』という言葉しかない」と目を潤ませた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください