露軍同行取材の映画、映画祭での上映是非問う議論…監督「反戦映画」主張も「プロパガンダ」批判相次ぐ
読売新聞 / 2024年9月30日 7時54分
ロシア系カナダ人の女性監督がウクライナを侵略するロシア軍に同行取材したドキュメンタリー映画「Russians at War」(戦争のロシア人)が、世界の映画祭で議論を呼んでいる。兵士の心情を描いた「反戦映画だ」と訴える監督らに対し、同情を誘う「巧妙なロシアのプロパガンダだ」との批判が相次ぎ、上映の是非を問う事態に発展している。
監督「反戦」主張
「安全面を考慮し、上映の見送りを決定した」
10月3日からスイスで開かれるチューリヒ映画祭の主催者は9月26日、声明で上映中止を明らかにした。
ロイター通信などによると、映画はアナスタシア・トロフィモワ監督が7か月間、露軍に同行して撮影した。兵士は武器の使い方を知らず、「戦う目的が分からない」と嘆き、露軍の現実を描いたとされる。若いドイツ兵の目を通して第1次世界大戦を描いた小説・映画「西部戦線異状なし」に近い作品だと称賛する意見もある。
映画はベネチア国際映画祭では上映されたが、ウクライナ系住民が多いカナダで9月15日まで開かれたトロント国際映画祭では、上映に反対するデモが発生した。残虐な行為があることに触れず、露軍の言い分を批判なく伝えているとの反発を招いた。
監督のトロフィモワ氏が「露当局の許可を得ず撮影した」と主張したことについても、疑問視する声が多い。露軍の許可なしに前線で取材するのは不可能とみられるためだ。露独立系メディアによると、トロフィモワ氏は、露国営メディア「RT」とドキュメンタリーを制作したことがある。RTは編集長らが今月、米大統領選に干渉したとして米国の制裁対象に加えられ、ロシアのプロパガンダ工作を担う組織として知られる。
トロント映画祭の主催者は抗議を受けて上映中止を決めたが、その後決定を覆し、映画祭終了後の17日に上映した。米ワシントン・ポスト紙によると、他人が観賞できないようにチケットを複数買った反対派もいれば、観賞後に「プロパガンダではない」と語っていた人もいたという。
ウクライナ政府は、チューリヒ映画祭の主催者に上映中止を呼びかけた。中止決定後、ウクライナ外務省は決定を評価した上で、「戦争犯罪を覆い隠すようなロシアの主張が、一般市民の目に触れる機会があってはならない」とのコメントを出した。
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