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能登地震で被害の旅館…入浴再開目前で夫が土砂災害で犠牲「お父さん、約束破ったらあかんよ」

読売新聞 / 2024年9月30日 23時54分

土砂や流木が流れ込んだホテル海楽荘(9月27日、石川県珠洲市で、読売機から)=古厩正樹撮影

 能登半島地震の発生から、1日で9か月になる。石川県珠洲市で旅館「ホテル海楽荘」を経営する池田幸雄さん(70)は、復興工事の作業員らに部屋を提供する一方、本格的な営業への一歩として10月の入浴再開へ準備を進めていた。その矢先、記録的な大雨による土砂災害の犠牲になった。「お父さんがいなくてどうすればいいのか……」。残された妻真里子さん(69)は声を詰まらせた。(金沢支局 戸辺悠大)

 激しい雨がたたき付けていた9月21日、建物の前に物置と軽ワゴン車が流れ着くのが見えた。驚いて2人で玄関に向かうと、突然、背後から濁流が流れ込み、体ごと外へ押し流された。

 「お父さん、どこー」。向かいにある公衆トイレの柵に引っかかった真里子さんが大声で叫ぶと、すぐ近くの松の木にしがみついて、左手を上げる幸雄さんが見えた。真里子さんはわずかに弱まった流れをかき分けて助けに向かい、右手を懸命に伸ばした。あと10センチ。再び強い流れが押し寄せた。真里子さんは松の木につかまったが、幸雄さんの姿は見えなくなった。

 4日後、近くの岸壁で遺体で見つかった。「離れたくなかったんやろうな。この近くで見つかって良かった」。真里子さんはつぶやいた。

 海楽荘は幸雄さんの父が50年ほど前に経営を始め、間もなく2人は結婚した。「お父さんがおしゃべり専門。誰ともしゃべるし、人が好きなんね」。人見知りの真里子さんに対し、幸雄さんは社交的な性格。館内のスナックのカウンターに立って、お客さんと歌って酒を飲んだ。幸雄さんの人柄にひかれ、毎年のように宿泊に来る人が多かった。

 元日の地震では旅館のガラスが割れ、外壁が崩れるなどの被害が出た。真里子さんは解体を考えたが、幸雄さんは「お客さん入れるから、さあ仕事仕事」。

 1月に電気が復旧し、2月には修復しながら作業員やボランティアのために営業を再開した。「へこたれておるわけにはいかんね」と、温かい料理を提供し、昼にはおにぎりを持たせた。断水は地震以来続いているが、10月には入浴を再開する予定だった。

 結婚した頃、幸雄さんは全国を飛び回り、時にはブリを持ち込んで目の前でさばいて旅館を売り込んだ。だから、幸雄さんのいない今は「どこかに出張に行ったのかな」という気がする。

 9月30日は真里子さんの誕生日。回転ずしに行く約束をしていた。「お父さん、約束破ったらあかんよ。先逝くなっちゅうに」。真っ暗な建物でため息をついた。

災害関連死に新たに11人認定へ答申

 能登半島地震の災害関連死にあたるかどうかを判断する石川県と被災市町の審査会は30日、新たに11人を認定するよう3市町に答申することを決めた。各市町が答申通りに認定すれば、県内の死者は400人を超える。

 この日は、穴水町の6人、志賀町の3人、羽咋市の2人について、関連死に認定すべきだと判断した。24日現在の県内の死者は374人。19日の審査会で答申された23人を含め、死者は408人になる見通しとなった。

 石川県は、大雨で所在が分からず、連絡が取れない安否不明者の氏名を公表している。30日午後2時現在の安否不明者は以下の通り(敬称略)。

 【輪島市】喜三翼音14(久手川町堂山)▽前川政二80(久手川町古込)▽中山美紀31(町野町寺地)

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