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「日本一」高校生の最終目標は「布教」、「恐怖のオタク」ダンサー・龍が目指す場所

読売新聞 / 2024年10月2日 10時0分

昨年のレッドブル・ダンス・ユア・スタイル日本大会を制した龍

 パリ五輪で正式競技に採用されたブレイキン。1対1の「バトル形式」が話題になったが、ダンスバトルの文化は、ブレイキンだけにとどまらない。「アニソン」でバトルする文化もあり、ここで活躍する「オタク」ダンサーが昨年、ストリートダンスのバトルで日本の頂点に立った。それが高校生の龍。異色の若手ダンサーの魅力に迫った。(デジタル編集部 古和康行)

トップクラスのダンサー

 「踊っているときでも相手と話すように」「自分のスタイルを見せて」。9月中旬。新宿の「アンダーアーマーブランドハウス新宿」。併設されたスタジオでは、ダンスバトル大会「Red Bull Dance Your Style(レッドブル・ダンス・ユア・スタイル)」のダンスワークショップが行われた。

 講師を務めた龍は親しみやすい笑顔と語り口で、言葉を交わす。参加者は憧れのダンサーを前にして、少し緊張した面持ちだ。龍は昨年のダンス・ユア・スタイル日本大会の覇者で、「アニメオタク」として知られる人気ダンサーでもある。YouTubeチャンネルの登録者は20万人超、インスタグラムのフォロワーは15万人。所属するアニソンダンスチーム「Real AKIBA BOYZ(RAB)」は10月4日に、日本武道館でのライブを予定している。知名度、人気ともに日本トップクラスのダンサーだ。

世界的なヒットソング「知らなかった」

 龍が昨年、日本大会を制したダンス・ユア・スタイルは、ジャンルレスのダンスバトルだ。ダンスバトルは数多(あまた)あるが、特徴的なのは「ヒットソング」を即興で踊ること。そして勝敗は観客がつけること。

即興で踊る――という点ではパリ五輪でも行われたブレイキンと同じだ。パリ五輪で流れた曲は、ブレイキンの選手やファン、あるいはクラブ・ミュージックを聞く人なら一度は耳にしたことがある曲ばかりではあったものの、一般的な観客からすると耳なじみのない曲ばかりだっただろう。

 ダンス・ユア・スタイルで流れる音楽はヒット曲ばかりだから、ダンサーも観客も知っていることが多い。勝敗は観客がジャッジするため、龍も「曲に対する親密度やダンスの分かりやすさが重要な大会だった」と振り返っている。

 ただ、「普段から聞いているのはアニメソングや声優さんの音楽、あとインターネットソングです」という龍の場合は少し事情が違ったようだ。「日本大会でかかったNewJeansの『OMG』、知らなかったんですよね」。 音楽配信サービス「Spotify」で計7億回以上も再生されるなど、世界屈指のバイラルヒットとなった韓国の五人組ガールズグループ「NewJeans」の「OMG」を「知らなかった」と明かした。

 誰もが知っている曲だから、盛り上げどころが分かるというこの大会で、屈指の「ヒット曲」を知らない。それでも勝ちきるのが龍のダンススキルの高さの証左ではあるが……。

水瀬いのりさんが人生を変えた

 アニメやマンガ、あるいはフィギュアやネットカルチャー……。かつて「オタク文化」と呼ばれたものは、もはや市民権を得ていると言えるだろう。濃淡こそあれど、著名人にそれらの愛好家を自称する人は少なくない。ただ、「アニメが人生」と言い切る龍は、愛好の度合いが違う。

 ダンサーとしてのルーツは3歳の頃。「家族がディズニー好きだったんです。僕が幼いころ、ディズニーランドに行ったときにパレードのダンスをまねしていたらしくて、スクールに通わせてくれたんです」という。ヒップホップ・ダンスを始めたのは6歳の頃。著名ダンサーのレッスンが近くのスクールで行われたことがきっかけだった。小学1年生の頃には、キッズダンスバトルの大会に出場するようになった。

 それとは全くの別軸で、小学生の時にアニメにハマる。「やることがなかった」時に、動画配信サービスなどを利用してアニメを見るようになり、「るろうに剣心」と出合って、そのカッコよさに取りつかれた。小学4年生で、アニメソングでダンスバトルをする「アニソンダンスバトル」と出合った。

 この頃からアニメを本格的に「履修」(龍)するようになった。「声優さんのラジオを聴くようになって」「女性の声優さんがたくさん出てくるアニメを見るようになって」「かわいい女の子がたくさん出るアニメを見るようになって」……。ずぶずぶと“アニメ沼”にハマっていった。

 そんな彼が道を定めたのは、ある声優のライブがきっかけだった。それは、夢中になったアニメ「Re:ゼロから始める異世界生活」のヒロイン・レムの声優、水瀬(みなせ)いのりさんの横浜アリーナでのライブだ。

 龍にとって「初めてのライブ」は衝撃だった。アリーナを埋め尽くすファンがみな、水瀬さんの曲を聴きにきていた。そして、それに「100%の歌声」(龍)で返す水瀬さん。「彼女一人の存在が、多くの人生を勇気づけている」と感じた。そして、その時に思った。「自分もこんなパフォーマーになりたい」と。その気持ちに突き動かされるように、SNSで自身のダンスを発信するようになるなど、この頃から龍は演者としての活動を本格化させる。「僕の人生は、水瀬いのりさんに走らせてもらったようなものです」

ダンスの目的は「布教」

 ヒップホップ・ダンスの確かなスキルと、アニソンへのアプローチ。ストリートダンスの祭典「ダンス・アライブ」のKIDS部門で4強入りする一方で、アニソンバトルの大会「あきばっか~の」で優勝するなど、ダンスバトラーとしてキャリアを積むにつれ、「天才オタク高校生ダンサー」として知名度と実力を高めていった。そして2022年10月、国内トップクラスの人気を誇るアニソンダンスチーム「RAB」に加入を果たすと翌年、ダンス・ユア・スタイル日本大会で見せた戦いが大きな話題となった。

 日本大会の2回戦でNewJeans「OMG」やBE:FIRST「Boom Boom Back」など「知らない曲」がかかる“トラブル”に見舞われるものの、ここを勝ち上がり、決勝へと進出した。

 この決勝の最後にかかった曲がアニメ「チェンソーマン」のオープニング曲である米津玄師「KICK BACK」だった。実はこの曲、アニソン・ダンスバトルなどでも2度ほど戦ったことがあるが、いずれも敗戦。「踊るには苦手な曲調」の曲だったが、作中の主人公の姿やミュージックビデオをオマージュしたダンスを音にハメると観客を沸かせ、勝利を手にした。

 ストリートカルチャーのド真ん中の大会で決めた「アニソン」ならではのダンスはSNSを中心にバズり、彼のダンサーとしての評価をより一層、押し上げた。

 日本代表として出場した世界大会は骨折の影響もあり、予選にあたるプレファイナルで敗退した。だが、日本大会で残した彼のダンスは、ダンスシーンに決して小さくないインパクトを残した。アニソンを主戦場にしたダンサーとしてストリートダンスバトルの最高峰で「日本一」、ダンスチームとしては異例の「武道館公演」……。未踏の道を行く原動力はやはり「アニメや声優さん」だという。

「自分が有名になって、自分の好きな作品や声優さんを『布教』していきたい。僕の力でサポートしていきたいんです。自分でも思いますよ。僕、『恐ろしいオタク』だって」

「推し」を推進力に高校生ダンサーは突き進む。

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