「自分の書評で、新刊を1500冊売ったこともありました」……ノンフィクション作品の紹介で人気を呼んだ「HONZ」の13年
読売新聞 / 2024年10月4日 15時15分
インターネット上でノンフィクション作品を紹介し、人気を博した書評サイト「HONZ」が7月、13年間の運営を終えた。どのような本が取り上げられるか出版関係者も注目し、紹介した本をまとめた書籍も刊行されたサイトだ。インターネットと書評をめぐる可能性と課題について、編集長は「やはり自分の原稿がはねたときは、手応えがありました」と語る。(文化部 待田晋哉)
ノンフィクションを13年にわたり紹介 HONZ
「テレビやラジオと比べて出版界の特徴は、様々な本があること。出版の多様性に何らかの貢献ができたのではないかと思います」
編集長を務めた内藤順さん(49)は語る。普段は広告会社の営業職として働き、サイトの仕事は「責任ある趣味」だという。
「HONZ」は、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞さん(69)が、小説やビジネス書などと比べてノンフィクションの読者や書評家が少ないことを危惧し、2011年に始めた。執筆募集に応じた一般人やブログの書き手、書評家らのべ約50人が参加し、約6100本の原稿を掲載してきた。
21年にはサイトで紹介した中から100冊を選んだ『決定版 HONZが選んだノンフィクション』(中央公論新社)を刊行。ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』や髙橋秀実『弱くても勝てます』など、硬軟様々な名著が並ぶ。
書評からネット書店への誘導
ネットの書評サイトの特徴の一つは、書評のページからネット書店のサイトにつながることだ。気になる本をすぐ購入できる。「書評の原稿料はありませんが、本が売れると筆者にネット書店などから若干の報酬が入ります。励みになるし、書評を通して本を売ることは意識しました」
原稿の分量は約2200字が目安で、本よみうり堂の大評より1400字程度長い。一方で、新聞の書評のページは紙面上で情報が「パッケージ」としてまとめられるのに対し、ネットの書評は単体で読まれる。各種のネットニュースなどとも競合する中で、読まれる工夫が必要という。
「見出しから計算し、最初の1段落目や2段落目で読者の心をつかまないと、読むのをやめられる。何を紹介し、どこで止めるかといったことも考えます」
新聞書評の前に載せるため、自身では本の発売から、10日以内に原稿を書くように努めていた。
サイト内で反響の大きかった書評について、「二宮敦人さんの『最後の秘境 東京藝大』は確か1500冊ぐらい、僕の書評を通して『売った』と思います。髙橋秀実さんの『弱くても勝てます』はサイトにアクセスが集中して、サーバーが落ちたんじゃないかな」と振り返る。話題になるときは、影響力のある人がツイッター(現・X)でリツイートしたり、色々な形で原稿がシェアされたりして、バズっていくのがはっきりと分かるという。
「書評を見た人がネット書店で購入した報酬の収入で、確定申告が必要になるくらいのときもありました」
ネット書評の経験が、本業にも良い影響
ネット書評の経験は、本業にも良い影響を与えたという。自身はもともとはあまり本を読まず、ブログを書くことに興味があったという。「SNSなどが出てきて自分でも情報発信したかったけれど、仕事の業務のことは書けない。グルメは太りそうだし、本がいいなと。ただ、ビジネスマンがビジネス書のことを書いても『1×1』にしかならない。ノンフィクションなど違う分野のことを書けば、面白いかけ算になる」と思った。
HONZに関わり始めたのは、30歳代半ばだった。職場では中堅となり、若手に仕事を任せることを求められるようになっていた。その傍らでこのサイト運営にあたり、書評の書き手ともやり取りし、自分でも原稿を書いた。
「読書が自分への投資になったのはもちろんですが、仕事がマネジメント業務に移る中でも、サイト運営を通して一種の『DIY精神』(自分でやる)を失わないでいられたように思います」
HONZの書き手たちのお薦めの本
「HONZ」の書き手たちは、サイト内で13年間で最も印象に残った本を挙げている。
■ダニエル・L・エヴェレット『ピダハン』(みすず書房、3740円)「ノンフィクションという制約があるからこそ、ウソのような話を追い求め続けてきた。(略)信じられないような話はたくさんあったが、書籍に限定して考えれば断然『ピダハン』だ」(内藤順)
■佐々涼子『エンド・オブ・ライフ』(集英社文庫、858円)「このごろは人生の終わりについて考えることが増えました。(略)この本で佐々さんは大事な宿題をくれました」(麻木久仁子)
■鈴木忠平『嫌われた監督』(文芸春秋、2090円)「何百という本の書評を書いてきたが、その中でひとつの真実を悟った。それは、『書評は引用に如(し)かず』ということである。(略)とにかく、それを痛感させられた一冊」(堀内勉)
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