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50代女性6割が年金「月10万円未満」衝撃のデータ明らかに 20代から始める「貧困リスク」に陥らない働き方/ニッセイ基礎研究所・坊美生子さん

J-CASTニュース / 2024年10月2日 18時11分

50代女性6割が年金「月10万円未満」衝撃のデータ明らかに 20代から始める「貧困リスク」に陥らない働き方/ニッセイ基礎研究所・坊美生子さん

若いうちから将来の年金を考え、キャリアアップしよう(写真はイメージ)

老後の暮らしを支える年金。若者からミドルシニアまでのひとり一人が、老後、受け取る額はいくらか。それが今年(2024年)7月、厚生労働省の「財政検証」で初めて公表された。

すると、女性にとって恐ろしい数字が明らかになった。50歳女性の6割弱、40歳女性の5割強が、単身の場合、「貧困ライン」以下である年金「月10万円未満」というのだ。

なぜそんなことが起こるのか。どういう働き方をすれば、女性が将来の不安がなく暮せるか。リポートをまとめたニッセイ基礎研究所研究員の坊美生子さんに聞いた。

60歳男女で月5万円、20歳男女でも月4万円の男女格差

この報告は、ニッセイ基礎研究所准主任研究員の坊美生子(ぼう・みおこ)さんが2024年8月5日に発表した「老後の年金が『月10万円未満』の割合は50歳女性の6割弱、40歳女性の5割強」という分析リポート。

今年7月、公的年金の「財政検証」(※下記ウェブサイト参照)を厚生労働省が公表した。5年に1度公的年金の財政状況や今後の見通しをチェックするものだ。

これまでは、40年間働いたサラリーマンの夫と専業主婦の妻を「モデル世帯」として、夫婦2人分の年金受給額だけを発表してきた。

しかし、現実には共働きや高齢者のシングル世帯が増えており、「モデル世帯」との乖離が指摘されてきた。そこで今回初めて、将来の年金額の見通しが個人単位で示されたことが最大の注目点だ。

財政検証では、個人の性別・年代別の見通しを、今後の経済成長の度合いによって2つのパターンで提示した。「成長型経済移行・継続」(実質経済成長率1.1%増)と、「過去30年投影」(同0.1%減)だ。ここでは坊さんが「より現実的」とする「過去30年投影」パターンを中心に紹介する。

【図表1】が男性の、【図表2】が女性の年金受給額だ。いずれも、2024年度に図表中に記載した年齢になる人が、65歳で年金を受給し始める場合に、月額でいくら年金をもらえるのか、見通しを示したものだ。

なお、この年金受給額は「国民年金」(老齢基礎年金)と「厚生年金」(報酬比例)を合わせたもの。【図表1】と【図表2】を比べると、女性のほうが男性より少ないことが一目瞭然だ。

たとえば、2024年度に50歳になる人の見通しを見ると、平均受給額は女性が月9万8000円で、男性は月14万1000円。女性は男性の7割以下だ。

また、受給額の分布で「月10万円未満」をみると、男性は約2割だが、女性は約6割が該当する。厚生労働省が定義する「貧困線」(手取りの世帯所得を世帯人数で調整した中央値の半分のライン)は現在、単身世帯だと月10万円6000円だから、月10万円未満でひとり暮らしの女性は、年金以外の収入がないと貧困リスクに陥る可能性が高い。

年金受給額に男女格差が起こる理由の1つ目は、厚生年金の加入期間に差があるからだ。50歳女性の厚生年金平均加入期間は22.7年。男性より11年以上短い。この世代は「結婚・出産を機に退職して専業主婦になった」「子育てが一段落した後はパートとして働いた」など、厚生年金の加入期間が短い人が多いからだ。

一方、若い世代はどうか。【図表1】と【図表2】をみると、男女ともに若いほど受給額が上昇している。若いほど労働参加が進むと予測されているためだ。特に20代~30代女性の増加傾向がより顕著だ。結婚・出産後も働き続ける女性が増えているからだ。

しかし、若い世代でも男女格差は残る。20歳女性の平均受給額は月11万6000円で、20歳男性(月15万5000円)より約4万円も低い。これは、【図表3】のように男女の賃金格差があるためだ。これが、厚生年金の支払額に男女差が出る2つ目の理由だ。

坊美生子さんは、

「女性は、男性より勤続年数が短いだけでなく、現役時代の管理職が少ないことや、昇進・昇給の機会が少ない事務職が多いことなどから、賃金水準が低いことが、老後の年金水準が低い要因になっています。ですから、女性自身が老後、困ることがないように、若い時から将来の年金のことまで考えて、できるだけ高度な職務に就いたり、スキルアップ・キャリアアップに取り組んだりして、年収アップを目指してほしいです」

と女性にエールを送っている。

※財政検証結果=2024年7月3日第16回社会保障審議会年金部会「令和6(2024)年財政関連資料(2)―年金額の分布推計―」

体が動けるうちはどんどん働こう、運動習慣を身につけ体力を維持しよう

J‐CASTニュースBiz編集部は、ニッセイ基礎研究所の坊美生子さんに話を聞いた。

――今回の「財政検証」で初めて個人の将来の年金受給額見通しが示されたわけですが、女性の生き方にとって、ズバリ一番注目すべて点は何でしょうか。

坊美生子さん ズバリ、女性個人の老後の年金見通しが、初めて示されたことです。これまでは、「モデル世帯」と称して、夫婦の年金見通ししか示されていなかったのですが、初めて、男女別に、個人単位の年金見通しが示されたことで、将来の年金に大きな男女格差があることが、明らかになりました。また女性については、シングルだと、貧困リスクが高い人が多いことが、具体的な生々しい数字で示されました。

私も正直、これほどひどいのかと驚いています。厚生労働省では「将来的には、女性の低年金は解消していく」と説明していますが、一番年金水準が高くなる現在20歳の女性でも、約4万円の男女格差が残る上、4割弱の方は年金が月10万円未満です。「解消」と言えるレベルでは、到底ありません。

女性たちは改めて将来の自分の年金受給額を見据えて、現在の暮らし方、働き方を意識的に変えていくことが大事だと思います。

特に、老後の年金が月10万円未満の割合が、50歳の女性で6割弱、40歳女性で5割強という数字は深刻です。配偶者など家族による収入がなく、自身にも年金以外の収入がなければ、相対的な貧困状態に陥ってしまいます。その年代の多くの女性にとって他人事ではなく、いまから備えておく必要があります。

――改めて年金受給額の低さが浮き彫りになった40代~50代の女性はどうすればよいでしょうか。

坊美生子さん 年金に不安がある人は、長く、しっかり働くことが大事です。体が動けるうちはどんどん働いたほうが、家計の助けになるだけではなく、介護予防にもつながります。なるべく長く働き続けるためには、今のうちから運動習慣を身につけて、体力を維持することが大切です。

年金受給額は現役時代の賃金水準と、厚生年金の保険料の支払い期間で決まります。「しっかり働く」ということは、できるだけ収入のアップを図るということです。

フルタイムの正社員か、パートでも、厚生年金に加入できる働き方をしたほうが、加入期間が延び、老後の年金の底上げにつながります。また、何歳からでも、新しい仕事にチャレンジしたり、仕事のスキルを磨いたりして、キャリアアップを図りましょう。

より収入を上げるためには、職場でもより難易度の高い仕事、責任の重い立場にチャレンジして、管理職を目指すことも選択肢から外さないでください。現在の職場では賃金アップが見込めないという方は、転職も視野に入れましょう。

「夫がいるから大丈夫」は危険、遺族年金は当てにできない

――しかし、自分の年金が少なくても、夫の年金があるから何とかなるだろうと考えている女性が多いのではないでしょうか。

坊美生子さん ご自身や夫が自営業という方は、国民年金しか加入していないので、「老後もらえる年金は少ない」という危機感を持って、若い時から貯蓄に努めたり、個人年金に加入したりしているかもしれません。また独身の女性も、ほかに稼ぎ手がいないため、意識的に貯蓄や投資をしているかもしれません。

それに比べ、夫が厚生年金に加入している専業主婦の方は、「老後も夫の厚生年金があるから大丈夫」と間違った安心感を抱いて、備えが不足している可能性があります。これまで国が公表してきた「モデル世帯」の受給見通しは、一定の生活ができる水準に達していたからです。

しかし、女性のほうが男性より平均寿命が長いため、人生の終盤で夫と死別してシングルになる女性が多いです。実際に、現在の年金受給者の配偶関係をみると、女性の半数近くがシングルなのです。「モデル世帯」にあてはまる専業主婦の女性は、世帯の受給額を、終身で受給できるような感覚に陥り、死別後の暮らしのイメージがわいていないケースが多いのではないでしょうか。

――遺族年金があると安心している人も多いです。

坊美生子さん 遺族年金は、夫の年金額から基礎年金を差し引いた残りの4分の3の額。2022年度のデータで遺族年金の月額は、自分の基礎年金を含めて10万円未満の人が約65%もいて、水準が低いです。夫が大企業に勤めていたというような富裕層で、年金額が相当高い場合を除き、残された妻が遺族年金だけで生活していくのは厳しいのが実情です。

また、「専業主婦で熟年離婚をしても、年金分割すれば何とかなる」と考える人もいるかもしれませんが、2022年度の離婚件数約18万件のうち、年金分割が行われたのは約3万件にすぎません。年金分割することを前提に、離婚後の年金受給額を試算するのは現実的ではありません。

ようするに、この世代でシングルの女性は、独身にせよ、死別や離別にせよ、低年金になるリスクが高いと言えます。専業主婦の方は、夫亡き後の年金額を想定して、今から準備する必要があります。

結婚・出産・育児を経ても、スキルアップ・キャリアアップに励んでほしい

――「おひとりさま」という言葉がブームのようになっていますが、現実は厳しいということですね。

坊美生子さん 今回の「財政検証」が明らかにしたのは、「女性は、こんなにも低年金の人が多い!」という事実です。

シングルになれば、貧困リスクに直面します。人生には「上り坂」「下り坂」、そして「まさか」があると言われますが、結婚しているから大丈夫と思っても、いつかは夫との死別がある。まさかの離婚もある。もちろん、最初から結婚しないという選択肢もある。

自分もいつかはシングルになるかもしれない。いつか大変になるかもしれない。そう思って「まさか」に備えて、女性自身の賃金アップと年金アップをはかりましょう。それが、自分の身を守る最も確かな道です。

――それでも男女格差が大きい40代以上の女性に比べ、若い女性の年金受給額は上昇するとリポートで指摘しています。若い女性に対するアドバイスをお願いします。

坊美生子さん 中高年よりも改善するとは言え、20歳女性の平均11万6000円、30歳女性の平均10万7000円という年金額は、決して高くありません。「月10万円未満」の低年金の層も、20歳女性で4割弱、30歳女性で4割強います。

男女格差も、厳然と残っています。【図表1】と【図表2】を見比べると分かりますが、「月15万円以上」もらえる人の割合も、男性の20歳と30歳では過半数に上りますが、女性の20歳と30歳では1~2割しかいません。つまり、女性では、今の20~30歳代でも、高年収で働き続ける人が少ないと試算されているのです。

学校を卒業して入社するまでは、男子も女子も同じだったのに、悔しくないですか? 男性と同じ初任給、同じ研修を受けながら、将来の年金にこれだけ違いがあるなんてショックですよね。40代、50代女性に述べたことの繰り返しになりますが、今の若い女性には、ライフステージを経ても、ずっと働き続けてスキルアップ、キャリアアップに励んでほしい。管理職にも進んで、自分自身の賃金水準と年金水準を上げてほしいです。

女性の場合、結婚、出産、育児を経ると、生活環境が大きく変化します。仕事への制約も大きくなるので、目の前のライフステージを乗り越えるのに必死で、いくつも先のライフステージである老後のことなどなかなか考えられないかもしれません。でも、女性自身の身を守るために、こういう老後保障に関する情報を、しっかり頭の片隅に入れておいてほしいです。

若いうちから自律した生き方と働き方を!

――老後のことが視野に入るのは40代くらいからと思いますが、それまでに何をしておけばいいですか。

坊美生子さん 現在、働き方改革が進んでいます。企業の仕事と育児の両立支援策も充実し、男性の育休取得に力を入れる企業も増えています。正社員であれば、子育て中でも働き続けやすくなりました。そうした制度を活用して、キャリアを中断せず、さらに、育児をしていても、キャリアアップをあきらめずに、しっかり働き続けてほしいです。

若いうちは、自分が生涯、独身であることや、離婚することを想定する女性は少ないと思いますが、現実に、女性の生涯未婚率は18%であり、夫婦の3組に1組は離婚しています。さらに、年を取るほど夫が先立つケースが増えるため、女性は80歳になると、半分以上はシングルです。

ですから、シングルが多い今の時代、特に高齢期になると「夫は仕事、妻は家庭」という男女役割分業は役に立たないのです。大黒柱だった夫が先立てば、女性自身が大黒柱になるしかないのです。今はパートナーがいる女性も、「まさか」に備えて、自律した働き方、生き方を描いてみてほしいです。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)


【プロフィール】
坊 美生子(ぼう・みおこ)
ニッセイ基礎研究所生活研究部 ジェロントロジー推進室兼任 准主任研究員

2002年読売新聞大阪本社入社、2017年ニッセイ基礎研究所入社。
主に中高年女性の雇用と暮らし、キャリアデザインを研究。日本は世界の中でもジェンダーギャップが最低ランクで、働く女性の賃金や老後の年金にも大きな男女格差があり、老後の女性の貧困リスクは増している。
そこで、女性がもっと自律的に、生き生きと暮らしていくためには、社会全体のジェンダーギャップ解消が必須と考え、多くの研究リポートを発表。また、生活者の視点から、高齢者が利用しやすく、外出促進につながる移動サービスのあり方についても研究。現在、和歌山放送ゲストコメンテーター。

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