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現状と戦い続ける女性編集者の訴えが胸を打つ「失敗の研究―ノモンハン1939」…ボニー&クライド思い出させた「三人吉三廓初買」

読売新聞 / 2024年10月3日 14時0分

木ノ下歌舞伎「三人吉三廓初買」(写真・細野晋司)

舞台合評

 首都圏で9月に上演された好舞台を演劇担当記者が語り合った。

祐成秀樹 劇団チョコレートケーキの座付き劇作家、古川健が青年劇場に書き下ろした「失敗の研究―ノモンハン1939」が出色だった。1970年の出版社を舞台に、長期連載を目指す新人編集者の沢田(岡本有紀)が(日本軍とソ連軍が衝突した)ノモンハン事件の関係者に取材を重ねるうちに、多くの命を犠牲にした大義なき事件の実体が浮かび上がる。

山内則史 女性の社会進出のドラマの中に近代史を組み込んだ構造が面白かった。日本軍の愚かさ、関東軍の傍若無人ぶりは、会社組織や官僚組織など現代社会の中に焼き直しのような形で残存していると思わざるを得ない。そんな現状に対し、戦い続けることの必要性を沢田が訴える最後の場面に胸を打たれた。

武田実沙子 河竹黙阿弥の世話物を木ノ下歌舞伎が上演した三人吉三廓初買さんにんきちさくるわのはつがいは休憩含め5時間20分の大作だが、長いとは全く感じなかった。通常、歌舞伎では3人の盗賊の話だけが抜粋上演されるが、キノカブ版では盗賊に関係のある花魁おいらんと商人の物語も上演。因果関係、人間関係がより深く伝わった。

小間井藍子 非道だけど義理人情に厚い3人の吉三。俳優たちの鮮やかなせりふ回し、立ち回りも相まって実に魅力的だった。演出(杉原邦生)のテンポも良く、人々がなぜこの物語にひかれるのか理由がよく分かった。お嬢吉三(坂口涼太郎)とお坊吉三(須賀健太)の美しく壮絶なラストは希代の犯罪者カップルを描いた映画「俺たちに明日はない」のボニー&クライドを思い出させた。

祐成 藤田俊太郎が初演出したシェークスピア劇、「リア王の悲劇」はさすがの出来栄え。副筋の主要人物エドガー、武人らを女性にするなど登場人物をジェンダーレスにとらえた上で、リズミカルなせりふ運びや生き生きとした演技を連ねて、古典を今の物語のように見せた。人間味あふれるリア役の木場勝己、道化と三女コーディーリアの2役を演じた原田真絢ら出演者誰もが好演した。

小間井 「ジェンダーレス」は9月上演舞台のキーワードかもしれない。俳優座が桐朋学園芸術短大と共同制作した「セチュアンの善人」も本来は女性が演じる主人公シェン・テを男性の森山智寛ちひろが演じた。演出は田中壮太郎。心優しい女性シェン・テの主張には誰も耳を貸さないのにシェン・テが男性に化けて威圧的に振る舞うと皆、抵抗できない。森山の巧みな演じ分けで現代社会でもありうる状況がリアルに伝わった。また、重要な役を学生が好演し、プロとアマの垣根も越えた作品に仕上がっていた。

祐成 山西竜矢が脚本・演出を務めるユニット、ピンク・リバティの新作「みわこまとめ」は恋愛依存の実和子(大西礼芳)の転落を描く悲喜劇。男たちにひどい目に遭わされてもめげない実和子の心の動きをスリリングに描き出した上に、本音を語り合える友人たち(うらじぬの、村田寛奈)とのやり取りもうまく絡めていて終始引き込まれた。

山内 「流れる血、あたたかく」は、秋葉原無差別殺傷事件に想を得て書いた三上陽永の戯曲を劇団チョコレートケーキの日澤雄介が演出。事件で死刑になった男は、高校で三上の1年先輩だったとのこと。母親の過剰な期待に応えられず、居場所をなくし、孤独地獄に落ちていく男が持っていた「普通さ」に、胸が苦しくなった。狭小な舞台空間を、シンプルな道具を使って様々な場面に変えていく見せ方の工夫も感じられた。

武田 2018年結成の若い劇団、かるがも団地の「三ノ輪の三姉妹」は、余命わずかの母親を前にした姉妹の溝が描かれる。柔らかな空気感で進む物語が印象的だった。脚本・演出は藤田恭輔。現在と過去を行き来しながら3姉妹1人ずつに焦点を当てて進む章立てで、自然体の姉妹たちに今の時代らしい若者像を見た。

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