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死因究明の解剖医が足りない…法医学教室の教授の大量定年退職、2030年までに全国で24人

読売新聞 / 2024年10月5日 9時17分

15県で1人以下

 大学の法医学教室で犯罪が疑われる遺体を司法解剖する解剖医の確保が課題となっている。2030年までに全国で教授24人が定年退職となる大量退職期を迎えるためだ。法医学教室の解剖医が1人の地域は14県、不在の地域も1県あり、解剖医不足の深刻化を懸念する声も出ている。(広島総局 小松大騎)

解剖は警察が扱う遺体の1割

 文部科学省などによると、大学の法医学教室に所属する解剖医は22年5月時点で140人。東京や大阪など都市部が中心の9都道府県では5人以上がいたが、広島や徳島など14県は1人だけだった。茨城県は大学に解剖医はおらず、財団法人「筑波メディカルセンター」が運営する施設が解剖を行っている。

 今後は常勤医の定年退職の増加が見込まれる。日本法医学会の内部資料によると、解剖医の定年は国公立大は原則65歳、一部私立大は63歳や67歳までで、法医学教室で教授を務める男女計24人が30年3月末までに退職する。35年3月末までにはさらに13人程度が退職する予定という。後任の教授が就任するとみられるが、「病気を治すのではなく、遺体を扱う法医学は地味」と敬遠する医大生も多く、今後人材不足が深刻化する恐れもある。

 警察が昨年に扱った遺体約20万体のうち、解剖されたのは1割の約2万体だった。昨年の死亡者は過去最多の約157万人で、30年には160万人近くに増える見通しだ。自宅で孤独死するなど、医療機関以外の場所で亡くなるケースも増加傾向にあり、警察が扱う遺体も今後さらに増える可能性がある。

不在で他県に

 解剖医が少ない地域では、法医学教室の教授が退職したり、転任したりして一時的に不在となることもある。

 広島県内では、司法解剖を担う法医学教室があるのは広島大だけで、教授の解剖医1人に負担が集中。スケジュールが合わず、県外の大学に依頼することもあり、捜査関係者は「司法解剖の日程がなかなか決まらず、捜査に遅れが出かねない」と嘆く。07年には広島大の教授が退職し、現在の教授が着任するまで中四国地方の大学で解剖していた時期もあったという。

 佐賀大でも07年末に、佐賀県内で唯一の解剖医だった教授が転任。後任の准教授が着任するまでの約10か月間、県内で解剖ができなかった。同様の事態は青森県や鳥取県でも起きた。

 和歌山県立医科大の法医学教室では、年間約250体を近藤稔和教授ら2人の解剖医が担う。緊急度が高ければ、夜間や休日も対応。1体あたり最低でも2時間を要し、5~6体の解剖が集中する日もある。

 近藤教授は「大学では多忙な上、ポストも少なく、若い研究者が経験を積むのは難しい」と語る。

「犯罪見逃しかねない」

 日本法医学会は、専任の医師らが解剖を行う「死因究明医療センター」を各都道府県に設ける構想を国に提言してきたが、具体的な進展はない。同学会の神田芳郎理事長は「解剖医不足が深刻化すれば、正確な死因究明ができず、犯罪の見逃しにつながりかねない」と話す。

 政府の「死因究明等推進計画」は、今年4月に始まった医師の働き方改革で残業時間の上限規制が導入されたことに触れ、「法医学教室の人員確保が重要であることを再認識する必要がある」と指摘。その上で「死因究明の公益性を社会全体で共有し、法医学者らの適切な処遇や活躍の場を確保することが重要だ」としている。

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