地震と大雨で「二重被災」、それでも「輪島塗再開は諦めない」…曲物木地師が懸命に工房整理
読売新聞 / 2024年10月6日 15時0分
石川県の能登半島北部を襲った記録的な大雨による災害は5日、発生から2週間となった。1月の能登半島地震で甚大な被害を受けた輪島塗の関係者は、再び試練を迎えている。職人らは伝統を絶やすまいと奮闘を続けている。(文化部 今岡竜弥)
泥がこびりついた木材の加工機械や、刃物などの道具類を無造作にまとめたいくつもの段ボール箱。9月下旬の記録的な大雨で、自宅兼工房が被災した輪島市二勢町の
「ようやく再開にこぎ着けたのに……。でも、もっとつらい状況の人もいるから、私らが深刻に考えてはだめなんです」。今月3日、打ち付けるような雨音が響く工房内で、蔵田さんは複雑な胸の内を語った。
輪島で生まれ育った蔵田さんは、機械やカンナなどで薄く加工した木材を手で巧みに曲げ、弁当箱など輪島塗のベースとなる木地を半世紀近く作ってきた。
そんな蔵田さんは、元日の地震でも被害を受けた「二重被災者」だ。地震発生時は娘らの住む福島県にいて無事だったが、自宅の土台は浮き、仕事道具や作品は散乱し、環境は一変した。工房の床ははっきりと傾き、「作業をしようと床に座ってみたけれど、めまいがするようだった」と振り返る。地震で一部損壊の判定を受けた自宅兼工房は、傾いた床を張り替えた。新しい材料の購入なども進め、6月頃から本格的に仕事を再開した。注文も入るようになり始めた頃に、再び災害に見舞われた。
大雨が降った9月21日は普段通り午前8時から従業員と作業を始めた。しかし、1時間ほどしたところで、妻から「仕事をしている場合じゃないかもしれんよ。山の方に逃げないとだめかも」と声をかけられた。周囲を見ると、そばの用水路から水があふれ、道路も川のようになりつつあった。
急いで近くの高台に避難した。夕方、水が引いた自宅に戻ると、納品直前だった多くの木地が水浸しになり、材料となる貴重な木材が一部流出していた。屋内は1メートルほどの高さまで水が達し、泥が10センチ以上たまっていた。「最初は家に入る気になれなかった」
駆けつけたのは、ボランティアや、蔵田さんが講師を務める近くの「石川県立輪島漆芸技術研修所」の研修生ら。泥のかき出しや道具類の清掃で大きな支えになった。ただ、大雨の被害を受けた職人は、ほかにも数多くいるという。
技術の継承拠点である同研修所は7日に授業を再開する。そこでの授業も控える蔵田さんは、こう力を込めた。「落ち込んでいても仕方ない。若い人たちが前を向けるように、私たちは仕事を再開する。それが次につながっていく」
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