横田めぐみさん60歳、同じ地区で暮らした蓮池薫さん「一緒に帰ってきていたら」…進展なく憤り
読売新聞 / 2024年10月7日 7時35分
北朝鮮に13歳の時に拉致された横田めぐみさんが5日、60歳の還暦を迎えた。新潟市の中学校から帰宅途中に連れ去られ、11月で47年。当局の管理の下、同じ地区で7年余り暮らした拉致被害者の蓮池薫さん(67)が取材に応じ、めぐみさんの望郷の念と北朝鮮への憤りを語った。(小川朝熙)
招待所生活
北朝鮮の首都平壌の中心部から北に十数キロの
集落では、拉致被害者の地村保志さん(69)、富貴恵さん(69)夫妻と蓮池さん、祐木子さん(68)夫妻が暮らしていた。めぐみさんは翌年、娘のキム・ウンギョンさんを出産した。
集落内は比較的自由に行動できた。めぐみさんはベビーカーに幼子を乗せ、夫と3人で散歩していた。
3家族はよく自宅を行き来して食事をした。ウンギョンさんを蓮池さん一家が預かったり、配給された食材でめぐみさんが桜餅を作って持ってきてくれたりしたこともあった。遠足や海水浴にも一緒に出かけた。
だが、日本に帰りたいという衝動に駆られたのだろう。めぐみさんは2度、招待所を抜け出して連れ戻されていた。そして94年3月、監視役のチェ・スンチョル工作員(蓮池さん夫妻拉致事件などで国際手配)らに「地方の病院」に連れて行かれた。蓮池さんたちがめぐみさんと会うことはそれ以降、一度もなかった。
「我々夫婦は2人で連れ去られたが、めぐみさんは1人。しかも13歳でどれだけつらかったことか。両親に会いたかったのだろう」と蓮池さんは推しはかる。
説明変遷
「日本に行ったら『めぐみさんは亡くなったと聞いた』と話せ」。2002年9月の日朝首脳会談後、帰国が決まった蓮池さんに対し、チェ工作員はそう指示した。「亡くなったのか。本当か」。蓮池さんが問いただすと「そういうことにするんだ」と言った。
北朝鮮は当時、めぐみさんが「93年3月」に亡くなったとする死亡確認書を日本政府に提出していた。だが、蓮池さんらが日本に帰国後、「少なくとも94年まで生存していた」と証言すると、「93年10月まで入院」、「94年4月に死亡した」と説明を変遷させた。
北朝鮮側は「夫が遺体を火葬し、遺骨を保管していた」とも主張したが、蓮池さんは「めぐみさんの夫は2000年まで招待所におり、何でも相談し合う仲だった。めぐみさんの『死亡』についてなど何一つ聞いたことがなく、遺骨も見たことがない」と憤る。蓮池さんは帰国後、新潟産業大の非常勤講師に就き、韓国語書籍の翻訳家としても活躍。同大の准教授を経て現在は特任教授を務める。
「めぐみさんが北朝鮮の意図する通りに話してくれないと思い、帰国させないのだろう。我々と一緒に帰ってきていたら、まだ30歳代だった。その時に何かできなかったのか。悔しくてならない」と唇をかんだ。
姉いない食卓 会話消えた…弟・拓也さん
蓮池さんによると、めぐみさんは北朝鮮の記念行事に動員され、楽器を演奏することがあった。手にしたのはバイオリン。弟・拓也さん(56)が習っていた楽器で、「弟が弾いていたの」と言っていたという。
蓮池さんからその話を聞いた拓也さんは、「少しでも家族とつながりがある楽器を選んだんだな」と思った。めぐみさんは面白くて明るく朗らかで、いつも家族の会話の中心にいた。
めぐみさんが行方不明になると生活は一変した。食卓の会話はなくなり、鍋がぐつぐつと立てる音だけが響いた。「鍋には暗く、つらいイメージがあり、今でも好きではない」。拓也さんはそう明かす。
帰国を待ち望んでいた父・滋さんは2020年6月、87歳で他界した。被害者の親世代は母・早紀江さん(88)と有本恵子さん(拉致当時23歳)の父・明弘さん(96)だけとなった。
拓也さんは「拉致被害者を取り戻せないいびつな現状に怒りを感じる。もう時間がない。政治家が先頭を切って動いてほしい」と声を絞り出した。
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