1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

倉本一宏さん 「光る君へ」の時代考証を担当する歴史学者は語る……古記録を読み解けば貴族の真実が浮かび上がる

読売新聞 / 2024年10月11日 15時15分

松本拓也撮影

 源氏物語の作者、紫式部の生涯を描いたNHK大河ドラマ「光る君へ」が人気を呼んでいます。その時代考証を担当するのが、平安時代史を研究する倉本一宏さん(66)です。主に貴族の日記である古記録を通して、平安時代の真実と貴族の実態を探ることに魅せられてきました。

『現代語訳 小右記』(吉川弘文館) 全16巻5万1920円

政務、儀式に奔走

 華やかな平安王朝を舞台に、それぞれの形で運命の愛を貫くまひろ(紫式部)と藤原道長。一条天皇の中宮となる道長の娘、彰子が(ちょう)(あい)を得る支えとなったのは、まひろの愛の証しである『源氏物語』だった――。

 女優の吉高由里子さんがまひろを演じる「光る君へ」で、ストーリーの鍵を握るのが『源氏物語』だ。「夫に先立たれた彼女が当時貴重な紙を入手し、長編の物語を書けた背景には道長の支援がありました」。()(みつ)な時代考証で、ドラマに説得力を持たせる。

 まひろの子の父が道長だったという大胆な設定も話題を呼ぶ。しかし、「ドラマのように道長と式部が恋仲にあったかは、史実としては分かりません」と話す。当時の貴族の日記などの一次史料にも、裏付けとなる記述は見られないという。

 「面白くなくてもいいから本当のことを知りたいのが、歴史学者の立場です」。古記録を重視するのもそのためだ。「文学作品だけでは、平安貴族が恋愛と遊宴にばかり熱中していると誤解される。古記録を読み解くことで、政務や儀式にいそしんだ貴族の真実の姿が浮かび上がる」

「望月の歌」の真意

 「古記録の中の古記録」と位置づけるのが、平安時代に右大臣などを務めた藤原(さね)(すけ)(957~1046年)の日記「(しょう)(ゆう)()」だ。実資は「光る君へ」でロバートの秋山竜次さんによる癖のある演技から、世間の注目を集める。

 その実像は、「家柄も良く、若くして有能ぶりを発揮した」のだという。「道長にも儀式や政務の遂行について頼りにされていた。道長の息子の関白・頼通の時代は事実上の『実資政権』だったと言ってもよい」

 小右記は977年から1040年までの63年間、6代の天皇にわたる政務や儀式運営の様子をつづる。摂関政治の最盛期を象徴する道長の歌「の世をば(わが)()とぞ思ふ望月の欠けたる事も無しと思へば」を記録した書でもある。

 ただ道長自身は、「座興で詠んだ歌であまり深い意味はなく、ましてや天皇の上に立つような意図は道長にはなかったはずです」。

 道長の日記「()(どう)(かん)(ぱく)()」には、「此の世をば」の歌の記述はない。それでも、この歌は「天皇をないがしろにした尊大な悪人道長による、しき政治体制としての摂関政治」というイメージを定着させた。

 後世の評判は必ずしも良くない。「現在の歴史教育は、腐敗した京都の貴族を関東の武士が打倒したという『発展段階論』がいまだ根強い。古記録を虚心(たん)(かい)に読むべきだ」と力説する。

研究の集大成

 大学時代に平安時代史を志し、小右記研究に親しんできた。その集大成として、昨年には現代語訳(吉川弘文館、全16巻)を完成させた。57歳の時から1年で2冊ペース、65歳までの完訳を目標にし、見事に達成した。「学生の頃からの信念で、気力・体力が充実している65歳までが学者でいる時期だと思ってきた」。長く務めた国際日本文化研究センターの定年にもあたるため、今年は“学者引退”の年に位置づけていた。

 それでも「光る君へ」の関係で一般書の刊行が相次ぎ、現代語訳にすべき古記録もまだ残っている。悠々自適の生活とはいかないようだ。

 平安時代中期は、国内で戦争もなく政治が安定し、文学も花開いた。「日本文化のピークと言っても良い時代に小右記や御堂関白記、(ごん)()などの良質な記録が残されているのは奇跡に近い」。源氏物語をはじめとする平安文学を愛好する人は多いが、「古記録にも多くの人が目を向けてくれるとありがたいですね」。

 「(けん)(じん)()()」と呼ばれた実資に導かれるように、平安時代の歴史・文化の伝道師であり続ける。(多可政史)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください