異種移植「日本でこそ必要」…米で「ブタの腎臓」執刀の河合達郎教授
読売新聞 / 2024年10月8日 5時0分
米国で今年3月、ブタの腎臓を人間の生きた患者に移植する手術を執刀した河合達郎・米ハーバード大教授(外科学)が、川崎市で読売新聞などの共同インタビューに応じた。河合教授は、動物の臓器を人間に移植する異種移植について、臓器提供者が不足する日本でこそ、実用化の議論を進める必要性を訴えた。主な一問一答は次の通り。
――手術結果への所感は。
移植したブタの腎臓は正常に働き、手術直後から尿を作り、特別な拒絶反応もなかった。移植は成功したと考える。ただ患者の心臓が想定以上に悪く、2か月弱で死亡した。なるべく他に疾患のない透析患者に実施することが望ましかった。
――米国社会の反応は。
批判の声は、あまり聞かなかった。私たちも当初はためらいがあったが、患者団体の集会で患者から泣きながら「異種移植を進めてほしい」と懇願され、初めて「やらねば」と思った。手術後、患者団体から励ましの声が寄せられた。
米国では、他に疾患のない透析患者だと4、5年待てば人間の腎移植ができるが、それでも関心は高い。日本は米国に比べ、臓器移植を受けられる機会が圧倒的に少ない。日本でこそ異種移植は必要で、数年以内に手術ができるよう議論を進めてほしい。
――医療コストと感染症の心配は。
異種移植は最初に遺伝子改変ブタの開発費がかかるが、手術後にかかる医療費は患者1人あたり年間100万円以下だ。透析を続けるよりQOL(生活の質)も良い。
サルで長年、移植の実験をして、未知のウイルス感染はない。今回の手術後も考えられる限りの検査を続けたが、異常はなかった。それでも異種移植を始めて何十年かは、慎重に感染症を調べる必要がある。
――今後も異種移植手術を続けるのか。
もちろんだ。ただ米食品医薬品局(FDA)は、他に方法がない治療としてしか認めていない。日本のように待機期間が長い国の患者を、米国で移植するアイデアを検討している。医療レベルが高く、術後のケアができる移植外科医や内科医がいる国が条件だ。
私が研修医の頃は人間の臓器でさえ生着率が低く、「臓器移植なんてありえない」という声も聞かれた。それと比べれば、今の異種移植の状況は悲観的ではない。将来は人間の臓器提供がなくても、異種移植で患者が回復する社会になる可能性は十分にあるだろう。
◆異種移植=人間と家畜など異種の生物間で行う臓器や細胞の移植。臓器の大きさや形が人間と近いブタから移植する研究が米国や中国で進み、拒絶反応を抑えるため遺伝子を改変したブタも誕生している。米国で2022年、患者へのブタ心臓の移植が世界で初めて行われた。
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