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派遣先での労災増加、経験浅く短期間で職場変わり高リスク…事故の遺族「安全管理に疑問」

読売新聞 / 2024年10月8日 5時0分

 派遣労働者が仕事中に死傷するケースが増えている。経験が浅く短期間で職場が変わる分、労災が起こりやすいとされ、派遣先で死傷した人は昨年初めて5000人を超えた。専門家は安全対策の強化が必要だと指摘している。(竹内駿平、中村俊平)

4トンのタンク

 「経験の浅い人に危険な業務を任せていたのではないか」。派遣先での事故で長男の蒔田まきた雅翔まさとさん(当時25歳)を亡くした母の麻衣子さん(49)はそう話す。

 遺族の話などによると、事故は今年2月29日、火力発電設備の製造・販売などを手がける「東芝エネルギーシステムズ」浜川崎工場(川崎市)で起きた。

 蒔田さんが同社社員と2人1組で、設備に利用するタンク(幅約1メートル、高さ約3メートル、重さ約4トン)を台車に載せて移動させていたところ、タンクが台車ごと倒れ、挟まれたという。

 病院に救急搬送され、治療を受けたが、意識を取り戻すことなく、約2週間後の3月13日に亡くなった。死因は多発骨盤骨折による多臓器不全だった。

 小学2年から野球一筋だった蒔田さん。専門学校を出た後も練習に励み、プロ野球独立リーグのトライアウトを受けたこともあった。

 交際していた女性との結婚を見据え、東京都内の大手派遣会社に採用されたのは昨年4月。神奈川県内の自動車工場で勤務した後、同7月から浜川崎工場で働き始めた。事故が起きたのはその7か月後だった。

 麻衣子さんが東芝側から受けた説明では、事故当時、蒔田さんと一緒に作業していた社員は、蒔田さんより数か月遅れてタンクの移動作業を担うようになり、この作業については経験が浅かったとみられる。この社員は事故前日のタンクの様子について「安定が悪そうな気がしていた」と話したという。

 労働基準監督署は、蒔田さんの死亡について労災と認定した。麻衣子さんは「安全管理が徹底されていたのか、疑問ばかりが残っている。同じ事故を二度と起こさないでほしい」と訴える。

 神奈川県警は、工場での安全管理体制に問題がなかったか捜査している。東芝側は取材に、これまでに同様の事故は起きていないとした上で「警察の捜査に全面協力している。原因究明を進め、再発防止策の策定と徹底を進める」と回答した。

死傷者5000人超す

 厚生労働省によると、労災で死傷した派遣労働者(休業4日以上)は昨年、過去最多の6892人。このうち派遣先で死傷したのは5379人に上り、初めて5000人を超えた。2015年(3242人)の約1・6倍で、業種別では製造業が50%(2705人)を占めた。

 厚労省が23年の労災による死傷者を分析したところ、経験年数が1年未満だったのは全労働者で全体の約2割に当たる2万7628人だった一方、派遣労働者は5割超の2991人だった。

 厚労省幹部は「仕事を始めてから間もない時期の労災発生率は高く、経験が浅いまま短期間で職場を変わる派遣労働者の労災は起きやすい」とみる。

対策必要

 労働者派遣法は、派遣元と派遣先に対し、派遣労働者の教育や訓練を行うよう義務づけている。厚労省は、労災事故が突出している製造業に関して、安全衛生管理のマニュアルを作成し、派遣元と派遣先がそれぞれ取り組むべき対策を示している。

 派遣先での労災死傷者が5000人を超えたことについて、厚労省の担当者は「重く受け止めている」とし、「マニュアルの活用など周知啓発を強め、新たな対策も検討したい」と話している。

脇田滋・龍谷大名誉教授(労働法)の話「コスト削減を進める企業側にとって、派遣労働者は非常に便利な存在となっているが、専門的なキャリアが短い労働者や高齢者が現場に派遣されるケースも多い。職場での教育や訓練の徹底など事故防止策を強化する必要がある」

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