婚約祝福してくれた弟が犠牲に、「悪夢から覚めることができない」姉は今も結婚式挙げず…ハマス奇襲1年
読売新聞 / 2024年10月8日 7時28分
昨年10月にイスラム主義組織ハマスの奇襲を受けたイスラエル南部レインの野外音楽祭会場では悲劇から1年たった7日、犠牲者の家族らが心の傷が癒えないまま、追悼行事に参加した。イスラエル軍による攻撃が続くパレスチナ自治区ガザでは、家族を失った人たちが悲しみに暮れる日々を送っている。
音楽祭会場 遺族ら追悼
昨年10月7日早朝、野外音楽祭で盛り上がる熱狂的な歓声は、死の恐怖におびえる悲鳴に変わった。犠牲者の1人が、ミュージシャンのブナヤフ・ヤッフェさん(当時22歳)だ。1年後のこの日、ギターを添えた追悼碑の前で、姉のノアさん(36)ら家族は、ブナヤフさんが作詞作曲した音楽に聞き入った。
家族でけんかすると、ブナヤフさんがギターで歌い、仲直りするのが常だった。奇襲の前日、ノアさんが自身の婚約を伝えると「やっぱりね。(婚約者の)彼のことは大好きなんだ。すごくうれしい」と祝福してくれた。今も結婚式は挙げていない。「10月7日はまだ昨日のよう。悪夢から覚めぬまま生かされている。祝う気になれない」
追悼行事の会場ではこの日、イスラエル軍が数分おきにガザを攻撃する砲撃音が会場外から響いた。「戦争は誰も望まない。平和と共存を拒否したのはハマスだ。砲撃は報復ではなく、私たちを守るためのものだ」とノアさんは語った。
ハマスは1年前、ガザ境界のフェンス119か所に穴を開け、イベント会場とキブツ(農業共同体)など26か所を戦闘員約6000人で奇襲した。身を隠す場所がない野原を逃げ惑う人々に無差別に銃を向け、レイプされた女性もいた。レインの襲撃現場を10日後に記者が訪れると、化粧ポーチから飛び出たアイシャドーや髪飾り、ビール瓶、ポテトチップが散乱し、急襲の痕跡が生々しく残っていた。
遺族の中には、奇襲の報復としてイスラエル軍がガザを攻撃し、ガザの住民が殺されていることに戸惑いを感じる人もいる。
「この砲撃音が私たちを痛めつける。憎しみの上に家は建たないし、喜びも生まれない。戦争を止めるべきだ」。娘のタマルさん(当時27歳)を失ったヤイラ・ガツマンさん(63)は訴えた。
タマルさんは幼なじみ4人と野外音楽祭に参加していた。病弱で入退院を繰り返し、コンサートや祭りに足を向けることはほぼなかったが、幼なじみと一緒ならと4か月前から計画し、待ちわびていたという。料理上手で、音楽祭の数日前に医師で多忙な生活を送る姉アドバさん(39)に夜食を届けてくれた。
襲撃直後は遺留品も見つからず、アドバさんは「ハマスに連れ去られたに違いない」と人質解放を訴える運動に加わり、声をからした。しかし、現場で採取された骨の一部がタマルさんのものとDNA鑑定で確認された。頭蓋骨はなかった。「(生存の可能性がある)人質の家族と顔を合わせるのがつらい」。妹の死がわかり、運動から遠ざかった。
「報復は求めていない。でも、家族を守りたい。国が安全であってほしい。平穏がほしい」。アドバさんは今の願いをこう語った。
(イスラエル南部レイン 笹子美奈子)
戦闘「家族21人を奪った」 男性 悲しみと決意…ガザ中部
パレスチナ自治区ガザ中部ディール・アルバラハに住むアブデルカデル・ジュダさん(28)は、イスラエル軍の空爆で一家21人を一気に亡くし、ただ一人の生き残りとなった。ジュダさんは「戦争は、私の家族、家、思い出、夢……。すべてを奪った」と読売新聞通信員に寂しげにつぶやいた。
昨年10月14日朝、ジュダさんが寝室で寝ていると、母に「パンを買ってきて」と起こされた。街に出てパンを買っていると、大きな爆発音が響いた。
家に帰ると、家は完全に破壊され、がれきの山となっていた。爆発音は家から響いたと知った。両親と3人の弟、7歳の妹、叔父ら計21人ががれきの下に埋もれ、死んでいた。「愛する人を1人失うだけでも人生は困難なのに、全員を失った。現実を受け入れることができなかった」
末妹で、娘のようにかわいがっていたハディジャさん(7)の頭の半分が爆弾で失われているのを見て泣き崩れた。「なぜ戦闘員であるはずがないハディジャまで攻撃されなくてはいけないのか」。ジュダさんは戦闘前、大学で法律を学んでおり、「戦闘が終わったら、イスラエル軍の戦争犯罪を追及したい」と誓う。
今は破壊された家の近くに張ったテントに独りで暮らしながら、がれきをかき分け、思い出の品を捜している。婚約しており、「新しい家族を持って人生を前に進めたい」と前を向く。娘ができたらハディジャと名付けるつもりだという。
(エルサレム 福島利之)
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