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小学校の伝統行事「立山登山」コロナ禍で岐路…児童の体力低下、教員の働き方改革が拍車

読売新聞 / 2024年10月8日 15時0分

立山登山に臨む子どもたち。新型コロナウイルスの感染拡大後、実施数が激減している(立山自然保護センター提供、2018年8月撮影)

 3000メートル級の山が連なる北アルプス「立山連峰」の頂を目指し、地元・富山県の小学5~6年生が登る伝統行事「立山登山」を実施する学校が、コロナ禍で激減したままになっている。児童の体力低下や教員の働き方改革などが原因で、山岳信仰をルーツに続いてきた行事が岐路に立たされている。(富山支局 柏木万里)

 「体力が低下し、登頂できない児童が年々増えている」。県内の小学校教頭は、そう言ってため息をついた。この学校では、来夏の立山登山の取りやめを検討しているという。

 同校ではこれまで、登山1日目に観光道路「立山黒部アルペンルート」の室堂(2450メートル)でバスを降り、雄山(3003メートル)に登頂。山小屋に宿泊し、専門家から自然や歴史の説明を受け、翌日に下山していた。室堂から山頂までは歩いて3時間ほどだが、近年は登り始めてすぐに体調不良を訴える子もいる。

 教頭は「夏の暑さや不規則な生活など様々な原因がある。ほかの行事を考える時期に来ている」と話す。

 富山県によると、県内の公立小学校では2016年度、全192校の半数を超える103校が立山登山を実施していたが、コロナ禍だった20年度は7校まで激減。21年度に28校まで回復したが、22年度は再び減少するなど、回復の兆しはみえない。

 立山博物館(富山県立山町)によると、立山登山は信仰登山から発展し、江戸時代は男子の成人儀礼だった。明治末以降、旧制学校の行事に位置づけられ、戦時期には心身を鍛える訓練となり、戦後に再び学校の行事になった。

 当時は、麓の富山地方鉄道の千垣駅(立山町、327メートル)から出発し、3~4泊をかける過酷なものだった。1971年のアルペンルート全線開通で室堂までバスで行けるようになり、小学校行事として定着した。

 富山市教育委員会では、立山登山の意義を「県内最高峰の立山に登ることで、達成感や充実感を味わい、自立心の醸成を促す」と位置づけ、実施する学校などに補助金も交付している。

 教員の負担も大きな理由になっている。

 2003年に児童が滑落死する事故があったため、引率教員は、安全講習会に参加する必要があるほか、参加人数分のヘルメットなどの準備や引率ボランティアも確保しなければならない。教員の働き方改革も必要になる中、県教職員組合の能沢英樹執行委員長は「立山登山の意義は理解するが、教員にとって大きなプレッシャーだ」と憂える。

 県保健体育課の担当者は「各学校の実情に応じて実施の是非を判断してもらうしかない」としている。

 名古屋大学の内田良教授(教育社会学)の話「宿泊学習は教員にも子どもにも負荷が大きく、子どもの心身の不調が生じるリスクが高い。皆が楽しく参加できる学校行事を考えるべきだ」

 立山のガイドを務める登山家の佐伯知彦さんの話「立山に登って一人前になるという文化を継承したい。企業や団体なども巻き込み、小学生が安全に登山できる体制作りが必要だ」

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