世界の深層をドキュメンタリーで照射、イメージフォーラム・フェスティバル…「ランボー3」がはらむ地政学巡る作品も
読売新聞 / 2024年10月9日 11時0分
先鋭的な映像作品や歴史的傑作を紹介し、多様な映像表現とその楽しみ方を提示する「イメージフォーラム・フェスティバル2024」(ディレクター:山下宏洋、門脇健路、武川寛幸)が10月12日から、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムなどで開催される。38回目の今回は、22プログラム92作品の上映と展示1作品で構成。注目作だらけの映画・映像の祭典の今年のポイントを門脇ディレクターに尋ねつつ、見どころの一部を紹介する。
事実をとらえ直す、通り一遍の解釈を拒む
今回のテーマは、「交錯する視線:ドキュメンタリーという物語」。
そのうち、「青き太陽の下で」(ダニエル・マン監督/イスラエル・フランス)は、冷戦時代のアフガニスタンを舞台にした「ランボー3/怒りのアフガン」が実は、イスラエル軍の協力のもと、ネゲブ砂漠で行われていたことに着目。単純明解な娯楽作の背後に横たわる複雑な地政学を読み解く作品だ。
パレスチナとイスラエル、アラブとユダヤについての通り一遍の解釈を拒む、ジュマナ・マナ監督によるドキュメンタリー2編を上映するプログラムもある。
ほかにも、かつてのアルゼンチン軍事独裁政権下の民衆弾圧と大企業の共犯関係という「忘却された事実」をスリリングにあぶりだす風景映画「コーポレート・アカウンタビリティー」(ジョナサン・ペレル監督/アルゼンチン)、イギリスの美術批評家・作家・詩人、ジョン・バージャーの思想を、女優のティルダ・スウィントンらが彼と「共に過ごす」ことによって浮かび上がらせていく「ジョン・バージャーと4つの季節」(デレク・ジャーマン・ラボ製作/イギリス)などもラインアップされている。
東アジアの多彩な才能が集結するコンペティション
2018年にスタートした「東アジア・エクスペリメンタル・コンペティション」は、東アジアの新しい才能、ベテランの新作にいち早く出会える公募部門。今年もアニメやドキュメンタリーを含め多様な作品が集まっている。
多くは短編・中編だが、中国のドキュメンタリー「共和国」(ジン・ジャン監督)は上映時間107分の長編。狭い部屋を借りて同居する若者たちが「とにかくだらだらしている」のを映し出す。「どこの国にもこういう人たちがいるんだな、という視点からみるととてもおもしろい」(門脇)
2023年のオタワ国際アニメーション映画祭短編部門グランプリを受賞した、折笠良による「みじめな奇蹟」、実験映像作家・伊藤高志の「遠い声」なども、この部門で上映される。
また、今年からは「作者と語ろう!」と銘打って、コンペティション参加作家と観客との交流・質疑応答に特化した時間を新たに設ける。「作り手に聞いてみたいこと、感想が言える場にしたい。『自分も作ってみたい』と思うきっかけも生まれれば」(門脇)
実験映画の歴史も現在も
実験映画の現在と歴史を見せるプログラムが充実しているのも例年通り。
その一つが、日本を代表するグラフィックデザイナーとして知られる粟津潔の映像作品集。最初の作品「インベーダー」(1968年)や、今年アートスペースとして公開された粟津邸(設計はJR京都駅ビルなどで知られる建築家の原広司)を舞台にした「風流」(70年)などをデジタル修復して上映。勅使河原宏監督作品の予告編・タイトル集や、山下洋輔とのコラボレーションによる「ピアノ炎上」(74年)なども上映する。
また、バラエティーに富んだアニメーションの新技法を開拓してきたIKIF(石田園子と木船徳光による石田木船映像工場)や、オプティカル合成を駆使するアメリカの実験映像作家で、「2001年宇宙の旅」の特殊効果アドバイザーでもあったパット・オニールの特集もある。
このほか、2024年のオーバーハウゼン国際短編映画祭で特集が組まれたスロベニアの映像作家、ダヴォリン・マルツの作品を集めたプログラムにも注目だ。「アイデアがとにかく豊富でおもしろい人」(門脇)。数分の作品を多数上映するが、中でも、作品を通して観客に指示を出す「ヘーヴィーズの空」(2020年)は独特の映画体験になりそうだ。
空に近い場所でメリエス
恒例となった渋谷の展望施設「SHIBUYA SKY(渋谷スカイ)」での野外上映プログラムでは、宇宙や未知の世界を題材にした作品をセレクトして上映。17日には、特撮・SF映画を初めてつくったとされるジョルジュ・メリエスの映画術をひもとくドキュメンタリー「メリエスの素晴らしき映画魔術」(2012年)と、ermhoiによるライブ演奏付きでメリエスの名作「月世界旅行」(1902年)を上映するプログラムも予定されている(悪天候時は日にち変更、中止の可能性あり)。
※イメージフォーラム・フェスティバル2024は、10月12日から18日まで東京で開催。その後、名古屋や京都に巡回する。各会場のプログラム、会期は、公式サイト(http://www.imageforumfestival.com)で。
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