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美智子さま、伝統織物に込めた沖縄への思い…慰霊訪問でデザイナーに託されたお手持ちの品

読売新聞 / 2024年10月9日 7時52分

フィリピンの晩餐会でお言葉を述べられる天皇陛下。美智子さまの肩にはサンパギータのコサージュ(2016年1月27日)=代表撮影

美智子さまの装い<1>

 20日に卒寿(90歳)の誕生日を迎えられる上皇后美智子さま。皇太子妃時代から長きにわたり、ご自身の「装い」を通して様々なお気持ちを伝えられてきたという。装いに携わった人々の証言から、美智子さまのメッセージを想像したい。

女性たちの手で紡がれた「芭蕉布」

 薄い茶色の地に、濃い茶色で規則的に描かれた模様が目を引く。その布はトンボの羽のように軽く、薄く、しかし手に取るとしっかりとした硬さも感じられた。終戦後まもなく消滅の危機にひんし、女性たちの手で大切に紡がれた沖縄の伝統織物「芭蕉布ばしょうふ」。この布を装いに取り入れてほしい――。2人のデザイナーは驚き、美智子さまの沖縄へ寄せられる思いの深さをあらためて感じたという。

 2014年6月。太平洋戦争中に撃沈された学童疎開船・対馬丸の犠牲者を慰霊するため、天皇、皇后両陛下は沖縄を訪問された。記念館で生存者らの話に耳を傾けられる美智子さまは、白いスーツ姿。胸元と袖口、帽子には芭蕉布があしらわれていた。

 美智子さまの衣装デザインを担当して5年になっていた滝沢直己なおきさん(64)は、ご訪問に向けて芭蕉布を示され、沖縄の歴史に思いをはせた。20万人が亡くなったとされる壮絶な地上戦。戦後は米国の統治下に置かれ、復帰後も基地問題で揺れる。「日本の悲しい時代に犠牲になった人がたくさんいる。そうしたことに礼を尽くしたいというお気持ちを芭蕉布に込められたのではないでしょうか」

 渡された芭蕉布は美智子さまのお手持ちの品。「宝物のように大切にされていたもの」と心得て、デザインには知恵を絞った。布の硬さを考え「お体が動きにくくならないよう、かつ、所作の美しさが損なわれないように」と用いる部位には細心の配慮をしている。

 一方、帽子のデザインを担当する平田欧子おうこさん(60)は、この年3月に亡くなった父・暁夫さんの後継となったばかりだった。示された芭蕉布は色柄の存在感が強く、帽子にあしらうにはバランスが難しい。どのように見せるか、ご意向をうかがいながら丁寧に進め、二筋に分かれたリボンの中央に柄を配置した。「ご満足いただける帽子を、と必死でした」

フィリピンの国花をコサージュで

 海外ご訪問でも、その土地や人への思いを装いに込められているという。

 2016年1月、フィリピン訪問中の晩餐ばんさん会でイブニングドレスを着用された美智子さまの肩には、同国の国花サンパギータのコサージュが留められていた。平田さんがシルクで作ったもので、白から淡い黄色の花に緑色の葉を添えている。淡い黄色がぼかされた白地のドレスに合わせた。

 「相手に対する思いを装いで表す。服とはそのような役割を持つものなのだと今さらながら感じます」。ファッションデザイナーとして約40年のキャリアを持つ滝沢さんだが、美智子さまの装いに携わることで、自分の服作りを見つめ直すことになったと語る。

【芭蕉布】バナナの木に似た多年草「糸芭蕉」の繊維を織りあげた生地。琉球王国の時代から普段着や官服など広く用いられた。大宜味村喜如嘉きじょかで作られる「喜如嘉の芭蕉布」は国の重要無形文化財に指定されている。

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