夜行列車「復権」果たすか 宿泊価格は高騰、時間を有効活用でき楽しく旅する手段に
J-CASTニュース / 2024年10月9日 12時10分
サンライズ出雲
鉄道好きで知られる石破茂衆院議員が首相に就任したことを受けて、夜行列車が再注目されている。石破首相は、選挙区である鳥取1区との行き帰りに「出雲」を使用したことを多くのメディアで語っており、さらには夜行列車の復活などの持論を訴えることも多い。
いっぽう、宿泊施設は価格が高騰し、予約が取りにくい状況が続いている。さらには、バスの運転士の不足により、夜行バスも減便傾向だ。コロナ禍で移動需要が減り、その後復活できないところも多い。
そんな中、夜行列車の可能性を探る動きが出てきた。
特急「アルプス」が中央本線に「復活」
JR東日本は、2024年の夏休みシーズンに、新宿~白馬間にて臨時特急「アルプス」を運行した。この列車は新宿を23時58分に出発し、白馬に翌朝6時22分に着く。以前、中央本線を走っていた夜行急行「アルプス」を実質的に「復活」させたといっていい。
かつては165系急行型電車を使用し、普通車はボックスシートで一夜を明かすというものだった。新宿駅には夜行列車を待つ人の長蛇の列ができていた。
「アルプス」は、主に登山客が利用していた。深夜に移動し、早朝から登山ができるので、夜間帯を有効活用、利便性の高い列車だった。
廃止前は特急型車両の間合い運用となっており、快適な空間を格安で利用者に提供していた。最後は下りのみの列車になり、2002年12月のダイヤ改正で廃止された。
近年は宿泊施設などの予約が取りにくくなり、行楽客などが求めていた列車を登場させた。また、夜行列車を待ち望む鉄道ファンの声に応えた、とも言える。
深夜に移動し、起きてからすぐ活動できる夜行列車の特性を生かしている。
だが夜行列車も、いい話ばかりではない。
車両不足で運休「サンライズ出雲」、ふだんは遅延も多い
8月29日、「サンライズ瀬戸・出雲」に使用されている車両が、鳥取県米子市の後藤総合車両所内にてほかの車両と接触し、車両の一部が損傷した。その影響で、「サンライズ出雲」の下り列車は10月15日~26日、上り列車は10月14日~25日に運休することになった(間で運転する日もあり)。いっぽう、「サンライズ瀬戸」は運転する。
いま、唯一の定期夜行列車として「サンライズ瀬戸・出雲」は人気が高く、チケットが取りにくい。
車両は7両編成が5編成、そのうちの4編成(東京~岡山間は2編成を併結)でふだんは運行し、残り1編成は検査などで休むという体制をとっている。だがそれが不可能となり、運休するしかなくなったのだ。
「サンライズ瀬戸・出雲」には、ほかに課題がある。出発時刻も到着時刻も夜行列車としては便利な時間で、岡山で新幹線と接続し広島・博多方面への利便性も高いのだが、遅延や途中での運転打ち切りが多い。SNSなどでは「サンライズ」の遅延報告がたびたび出てきている状況で、定時性に難がある列車となっている。時間の有効活用として夜行列車は便利なものなのか? と言われると、「ううむ」とうなるしかない。
楽しかった記憶を刻む人々
ただ、「サンライズ瀬戸・出雲」の人気から考えると、「夜行列車は楽しいものだった」と言えることは確かだ。
夜行急行のボックスシートで一晩を明かした思い出を持つ人もいれば、あこがれだった寝台特急に乗れてうれしかったという人もいる。青函トンネルができて、寝台特急で北海道まで向かうことが可能になり、個室寝台でわくわくした記憶を持つ人も多いと思われる。
寝台特急を移動に使用する政治家は、最後は石破茂氏くらいになってしまったが、石破氏も個室寝台でのひとときを、くつろげる至福の時間と感じていたのだと思う。
そういった記憶を持っている人が、いまなおいる。
いっぽう近年、JR東日本やJR西日本、JR九州は過去の記憶を持っている人をターゲットに豪華な車両を使用したクルーズトレインを運行している。特別な車両を使用したツアーとして運行している。
ただ、かえって「高嶺の花」になっているところも。そういう意味では、楽しみの面で一般の夜行列車が求められている側面がある。
ビジネス面でも、時間さえ正確であれば移動とくつろぎを両方確保できる夜行列車を使用したい人もいる。宿泊施設の確保困難で、夜行を利用するという選択肢を提供するというのも、鉄道会社のビジネスとしてはありだと考える。
採算が合わないという課題もあるが、夜行列車は複数の側面から求められているのではないだろうか。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。
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