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知床観光船事故、桂田社長は「出航止める立場」…業務上過失致死罪で起訴に至った捜査側の判断

読売新聞 / 2024年10月10日 5時0分

 乗客乗員26人が犠牲となった観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故は9日、運航会社「知床遊覧船」社長の桂田精一容疑者(61)が業務上過失致死罪で起訴されたことで新たな局面を迎えた。2022年4月23日の事故発生から2年5か月余り。第1管区海上保安本部と検察庁の捜査はどのように進められたのか。捜査幹部らの証言から、その経緯をたどった。

■沈没原因の特定

 自社の運航基準に反し、天候悪化が予想される中で出航。無線も故障したまま放置。社長は出航から間もなく事務所を留守に……。

 事故直後から次々と明らかになる同社の安全管理体制の問題点。海難事故の捜査は「まず船長の責任を検討する」が定石とされるが、1管本部の幹部はこう振り返る。「全体像を考えれば、社長の責任を問わないという選択肢はなかった」

 最も時間を費やしたのは「沈没原因の特定」だ。

 1管本部は3Dプリンターでカズワンの大型模型を作り、気象・海象の条件を細々と変えて実験を重ねた。蓋がしっかり閉まらなくなっていた船首甲板のハッチを浸水箇所と特定した後も、リットル単位で流入量を測定。資料をとじたファイルは60冊を超え、拠点が置かれた網走海上保安署には、資料を保管するためだけの部屋が用意された。

■予見可能性

 ただ、原因の特定だけでは桂田容疑者の刑事責任を問うことはできない。

 今回のように刑法上の「過失」の有無が問題となるケースでは、捜査当局が裁判で「事故が起きる可能性をある程度まで具体的に予見できた」と立証できなければならないが、国の検査代行機関「日本小型船舶検査機構(JCI)」は事故3日前にハッチの状態を「良好」と認定していた。桂田容疑者も一貫して「ハッチの不具合は把握していなかった」と説明しており、この部分で「予見可能性」を立証することは困難だったのだ。

 そこで1管本部と釧路地検は、桂田容疑者の「社内の立場」に焦点を当てた。

 桂田容疑者は当時、船長と連携して出航の可否を判断する「運航管理者」や「安全統括管理者」を自ら兼任。カズワンが出航した斜里町には朝から強風・波浪注意報が出されており、「乗客や乗員の安全を考えて出航を止めるべき立場にあった」と主張することが可能だ。カズワンの運航コースの水温は3度ほど。沈没や船からの落下が起きればまず助からないことも容易に想像できる。

 あとは法廷で黒白をつける――。起訴の方針が固まり、1管本部は9月18日朝、桂田容疑者を電撃的に逮捕した。「最後の最後」で口裏合わせなどが行われるのを防ぐためだった。

■一貫して否定

 一方、任意の事情聴取に応じ続けてきた桂田容疑者側は、突然の逮捕と起訴に憤りを隠さない。

 これまでも一貫して「出航前に船長から『天気が荒れれば引き返す』と言われていた」などと説明して予見可能性を否定しており、釧路地裁で開かれる公判でも無罪を主張していく見通しだ。

 海難事故に詳しい田川俊一弁護士(東京弁護士会)は釧路地検が公表した起訴事実について、「弁護側は『ハッチの不具合を知らない以上、悪天候だけで沈没を予想するのは困難だ』などと反論できる。こうした主張を崩せるかどうかが勝負を分ける」と指摘した。

 起訴を受け、桂田容疑者と乗客家族それぞれの弁護団がコメントを発表した。

桂田容疑者の弁護団

 有限会社「知床遊覧船」が事故を生じさせ、多くの乗客の方、船員に犠牲を生じさせてしまったこと、また依然として行方不明の方々もおられることについては、法人代表者としてこれからも謝罪と償いを続けていく所存です。

 これから刑事裁判を受けることになりましたが、刑事裁判の場では、本件事故に関わる私個人の認識や記憶していることをきちんと申し述べたいと思います。

乗客家族の弁護団

 桂田氏の刑事裁判では、被害者家族の皆様が被害者参加の手続きをとることが見込まれます。私たち弁護団は、引き続きご家族の皆様に寄り添いながら、なぜこのような事件が起きたのかを明らかにするとともに、刑事裁判という場を通じて、改めてご家族の皆様の思いを社会に訴えかけていきたいと考えています。

 また、桂田氏の刑事責任の追及はもちろんのことですが、今回の刑事裁判が社会全体で再発防止策を考えていく契機になることを願っています。

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