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袴田氏無罪確定 人生を奪った刑事司法の罪

読売新聞 / 2024年10月11日 5時0分

 逮捕から58年の歳月を経て、ようやく強盗殺人犯という汚名がすすがれた。失われた人生は取り返せない。事件の教訓を刑事司法の見直しに生かさねばならない。

 1966年に静岡県で一家4人が殺害された強盗殺人事件を巡り、死刑が確定した袴田巌さんの再審で、静岡地裁が言い渡した無罪判決が確定した。検察が控訴を断念した。再審無罪が確定した死刑事件は戦後5件目となる。

 事件の約1年後、現場の近くで血痕が付いたシャツなどが見つかり、当初の死刑判決は、袴田さんの犯行時の着衣だと認定した。これに対し、再審判決は血痕の色が不自然で、衣類は捜査機関が捏造ねつぞうしたものだと断じた。

 検察は控訴断念にあたり、異例の検事総長談話を発表した。「捏造」との指摘に対しては、「到底承服できない」と反論する一方、「袴田さんを法的地位が不安定な状況に置き続けるのは相当ではないとの判断に至った」とした。

 捜査当局のメンツのために裁判をこれ以上長引かせることは、あってはならない。検察内部に控訴すべきだという意見もあったようだが、今回の判断は当然だ。

 袴田さんの取り調べは当時、連日12時間に及んだ。トイレに行くのも許されず、自白を強要されたという。冤罪えんざいだと確定した以上、警察と検察は、これまでの捜査の問題点や、裁判がここまで長期化した原因を洗い出すべきだ。

 再審判決を言い渡した裁判長は法廷で「長い時間がかかり申し訳ない」と謝罪した。再審だけで40年を超えた手続きを、もっと早く終わらせられなかったのか。裁判所も訴訟進行の検証が必要だ。

 現行の再審制度では、検察から弁護側への証拠開示が義務化されていない。このため、冤罪の証明につながるような重要な証拠を検察が開示しないこともある。

 裁判所が再審の開始を決めても、検察は不服を申し立てられるため、再審の裁判がなかなか始まらない。再審開始決定が出た場合、直ちに再審に移行すれば、全体の審理期間は短くなるはずだ。

 人間には間違いがある。再審制度は、それを前提として、冤罪の被害者を救済するために設けられている。科学の進展によって、過去の捜査や証拠の誤りが露見するケースも増えている。再審のルール整備が急務だと言えよう。

 袴田さんは半世紀近く拘束され、死刑執行におびえる日々を送った。司法に翻弄ほんろうされる悲劇を繰り返すことは許されない。

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