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名字と名前で分ける封じ手の割り印「佐々木」「勇気」の新手、受け取った王者は動揺…「藤井」「聡太」の分割サインがよぎる[指す将が行く・竜王戦第1局後編]

読売新聞 / 2024年10月15日 11時30分

左は「佐々木」「勇気」の割り印が斬新な第37期竜王戦第1局の封じ手封筒。右は第35期竜王戦第2局の封じ手封筒で「藤井」「藤井」と「広瀬」「広瀬」の割り印が記された通例だ=若杉和希、吉田祐也撮影

 第37期竜王戦七番勝負第1局は藤井聡太竜王が佐々木勇気八段に先勝した。タイトル戦初登場ながら、佐々木八段は食事やおやつの「ダブル注文」で棋士らの度肝を抜き、封じ手封筒への割り印となるサインでは「佐々木」「勇気」と分割する新手を披露した。封筒を受け取った藤井竜王はポーカーフェースを貫いたが、内心は動揺していて「分割案」に傾いた瞬間もあったという。(デジタル編集部・吉田祐也)

種類豊富な食事・おやつ、メニューを前にうれしい「長考」

 竜王戦で挑戦権を獲得した日から第1局を迎えるまで「あっという間」だったという佐々木八段は開幕局の対局者控室で「もう、ここにいるのか」と不思議な感覚だったという。

 対局前日、東京・渋谷のセルリアンタワー能楽堂の楽屋で佐々木八段は「長考」に沈んでいた。スタッフから渡された食事とおやつのメニューを眺めながら「種類が豊富。どれにしようか」「2日目の食事やおやつは形勢にもよります。食欲が違いますから。うーん、決めきれない」と話していた。タイトル戦の空気に包まれていた挑戦者は「うれしい悩み」を満喫していた。

おやつダブル注文の「新手」、中村太地八段「若いなあ」

 第1局は藤井竜王が先手となり、佐々木八段は角換わりを受けて立った。研究が進んでいる戦型で、初日の午前はスラスラと駒が動く。開始1時間でおやつの時間を迎えた。佐々木八段は「新手」を用意していた。シュークリームとメロンショートケーキの「おやつダブル」を注文したのだ。食事の2人前注文は大食漢で知られる丸山忠久九段の例があるが、おやつのダブル注文は珍しい。

 中村太地八段が能楽堂の控室に到着し、佐々木八段のおやつダブルを知ると、目が点になっていた。注文カードを眺めた中村八段は「エンジョイしていることが伝わってきます。初めてのタイトル戦とは思えません。自分は緊張してばかりだったので」と話した。能舞台を映すモニターでは、挑戦者が席を外していた。おやつは楽屋に出される。「佐々木八段は、完食するのでしょうね。若いなあ」と笑った。

特大ハンバーガーとスパゲティ…昼食も2品、驚異のボリューム

 おやつダブルの衝撃が残るなか、昼食休憩の時間が迫ってきた。セルリアンタワー東急ホテルの従業員が、撮影用の食事スペースを準備し始めた。そこには面白い光景が広がっていた。佐々木八段側の敷物が長いこと、長いこと。ホテル関係者らは「(食器が)載るかなあ」と小声で話している。昼食もダブル注文を敢行していたのだ。さあ、何が届くのか。

 佐々木八段が頼んだのはビッグハンバーガーとスパゲティボロネーズだった。目にした関係者から「おー」の声が出る。国産牛パテを170グラム使用した特大のハンバーガーであり、付け合わせのポテトとオニオンリングの量もかなり多い。記者も若杉和希カメラマンも実食し、特大バーガーを完食したが、ここからさらにもう一品を食べる気はおきなかった。竜王戦プレミアムで観戦したファンらは、佐々木八段の食事の実物を目の当たりにして「わんぱく」「指しすぎ」と笑ってしまう光景がみられた。

ハロウィーン期間限定のモンブラン、藤井竜王は「かわいい攻め」

 中盤戦にさしかかり、盤上が緊迫してきた初日の午後、おやつの時間を迎えた。盤外では佐々木八段が話題をさらうなか、藤井竜王は得意の「かわいい攻め」を繰り出した。ハロウィーン期間限定の紅芋のモンブランを注文した。「モンスター形」のスイーツで、手の形が昨年とは異なり、歌舞伎のポーズのようになっていて遊び心に満ちている。ホテル関係者は「藤井竜王のかわいい注文が来ました」と喜んでいた。

 これまで、藤井竜王がタイトル戦で頼んだおやつがブームになることが多々あった。名古屋の「ぴよりん」や京都の「くま最中」などは、完売御礼の人気商品に。「かわいい」スイーツや、地元産の食材を使ったおやつを好む藤井竜王がもたらす大きな経済効果は、タイトル戦が行われる地域の注目を集めている。一方、挑戦者が注文したおやつは影が薄くなりがちであったが、佐々木八段は違った。

シュークリーム「4連投」の宣伝効果、スイーツ売り上げ2倍超に

 対局が終盤に差し掛かった2日目の午後3時過ぎ、佐々木八段がオーダーしたおやつはシュークリームだった。初日から4回のおやつ注文があったが、佐々木八段はシュークリームを4連続で頼んでいた。SNSで「4連投」が話題になっていた。中村八段は「4連続とは、誰もまねできません。おいしそうだったので、話題のシュークリームを買っていただきました。圧倒されるボリュームで、濃厚なクリームでした」と話した。

 中村八段を刺激したように、佐々木八段のシュークリーム4連投は抜群の宣伝効果があった。セルリアンタワー東急ホテルの「シューパリジャン」は有名商品となり、ホテルの関係者は「売り上げが1.5倍になりました。品切れになったので至急、作っています」と小躍りしていた。後日、売り上げを精査すると同ホテルのスイーツ売り上げは2倍超になったそうだ。藤井竜王に負けない宣伝効果があった佐々木八段の4連続注文に感謝しきりだった。

封じ手の割り印でも「新手」…藤井竜王「この書き方があったのか」

 対局には敗れたものの、佐々木八段は「封じ手」で爪痕を残していた。タイトル戦初登場の佐々木八段は初の封じ手をすることになった。封じ手を入れた封筒に「佐々木」「勇気」と名前と名字を分けてサインし、割り印としたのだ。棋士らは「見たことがない」と口をそろえた。新趣向の封じ手封筒を受け取った藤井竜王は表情を変えず、少し間を取って「藤井」「藤井」とペンを進め、いつも通りの形式でサインした。

 局後、佐々木八段の割り印「新手」について藤井竜王に尋ねると「受け取って目にした瞬間、かなり動揺しました。この書き方があったのかと。それならば『藤井』『聡太』と分けてサインしようか、瞬間的にそちらに傾きかけましたが、思い直していつも通り名字で割り印にしました」と、その時の気持ちを明かした。実は挑戦者は「佐々木」「勇気」の割り印について、日本将棋連盟の職員に事前確認を取っていたそうだ。勇気流は大胆に見えて、細やかさを秘めている。

 第1局を終えた藤井竜王は佐々木八段の「ダブル注文」を知った。「二つ注文ができるのですね。斬新です。なるほど」と興味を示していた。竜王戦七番勝負は始まったばかり。佐々木八段の盤外での個性的な「新手」を、藤井竜王が拝借する日が来るかもしれない。

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