ノーベル平和賞 核の脅し封じる契機としたい
読売新聞 / 2024年10月12日 5時0分
ロシアによるウクライナ侵略で核の脅威がかつてなく高まる中、核兵器の廃絶を訴え続け、軍縮の機運を醸成してきたことが高く評価された。
長年にわたる粘り強い活動が、世界に与えた影響は大きい。その栄誉を
日本の被爆者団体の全国組織である「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」が、ノーベル平和賞に決まった。
ノルウェーのノーベル賞委員会は授賞理由について、「たゆまぬ努力により、核兵器の使用は道徳的に容認できない、という国際規範が形成された」と説明した。
広島、長崎は来年、原爆投下から80年の節目となる。被爆者は高齢化し、被爆体験を肉声で伝える人は減っている。被害の実相を世界に伝え、後世に残していく活動が重みを増していることも、授賞につながったのではないか。
被団協の結成は、1954年、米国による太平洋のビキニ環礁での水爆実験で日本の漁船「第五福竜丸」が
その後、「ノーモア・ヒバクシャ」をスローガンに国内外で署名活動や請願を続けた。こうした活動が実り、95年には被爆者援護法が施行された。
被団協が特に国際的な注目を集めたのは、2016年に米国の現職大統領として初めてオバマ氏が広島を訪れた時のことだ。
被団協の代表委員だった坪井直さんと握手した場面は、原爆を落とした米国と被爆者との和解の象徴として、世界に発信された。坪井さんは21年に亡くなった。
だが、核を巡る情勢はむしろ悪化している。ロシアによる威嚇に加え、中国は核弾頭を増やしている。北朝鮮の核・ミサイル開発もアジアの安全を脅かしている。
特にロシアは核使用の可能性をほのめかし、また、イスラエルはイランの核施設攻撃の可能性を捨てていない。核の恐怖を、戦況を有利にするための手段に使う傾向が強まっている。
今回の授賞決定は、こうした動きに対する重い警告の意味も込められているのではないか。
日本は、核廃絶への努力をこれまで以上に積極的に進める責任を負ったといえる。
特に日本は、核兵器の使用がどれほど残虐な被害を人類に及ぼすかを体験した立場にある。核使用を容認するかのような風潮を食い止めるための国際世論形成に向けて、先頭に立つべきだ。
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