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シャリーノ「ローエングリン」を指揮した杉山洋一…異色のオペラ日本初演、橋本愛の演技に太鼓判

読売新聞 / 2024年10月16日 17時0分

「野心はない。人と人のつながりから得たものを音楽で伝えたい。それだけです」と語る=横山就平撮影

 イタリア・ミラノ在住の作曲家で指揮者の杉山洋一(54)が5、6日、横浜の神奈川県民ホールでイタリアの現代作曲家サルヴァトーレ・シャリーノのオペラ「ローエングリン」日本初演を指揮した。言葉では表現しがたい不思議な雰囲気を持つ作品を、どのように聴かせようとしたのか。公演前にインタビューした。(松本良一)

 「ローエングリン」は普通の意味でのオペラではない。橋本愛が演じるただ一人の登場人物、エルザは、日本語による独白の合間に特殊な唱法を駆使して鳥のように鳴き、獣のようにほえる。

 音楽は異様な緊張感に包まれ、一人の女性の中にいくつもの分裂した人格が現れる。ワーグナーの同名作品とは全く異なった物語は、人間の精神のもろさと底知れぬ深みを観客に突きつけていく。

 上演時間は約1時間で、「何よりも音の響きの面白さを感じてほしい」と話す。学生時代から録音を繰り返し聴き、この作品を「頭ではなく、触覚的に理解してきた」と自信を語る。

 1995年からミラノに住み、シャリーノとも面識がある。日本初演を託された後、作曲家を自宅に訪ね、日本語訳による上演許可を取り付けて自ら台本の下訳もした。満を持して本番に臨んだ。

 指揮したのは20人ほどの小編成アンサンブル。「鋭敏な感覚でさまざまな人格に憑依ひょういできる体質がある」と映像分野で活躍してきた橋本の演技力に太鼓判を押す。終盤、それまでの世界が崩れ去り、がらりと風景が変わる衝撃的な場面が訪れる。「そこが一番の聴きどころかもしれない。作曲家が作品に込めた思いをどこまで伝えられるか」

 作曲家としてこれまでに佐治敬三賞などを受賞し、知的で繊細な作風が評価されている。一方、指揮者として昨年度の斎藤秀雄メモリアル基金賞を受賞するなど現代作品の指揮でも定評がある。もっとも、「指揮するようになったのはたまたまで、指揮者が第一の仕事とは思っていない」。指揮で自らの解釈を前面に出さず作品を尊重するのは、作曲家ゆえの態度なのかもしれない。

 イタリアに長年住んで体得したことは、「物事の本質を誠実に追求する姿勢があれば、多少いいかげんでも最後は何とかなるということ」。ここ一番の大舞台で、このひょうひょうとした姿勢が頼もしい。

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