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金原ひとみさん『ナチュラルボーンチキン』刊行、40代女性の出会いと再生

読売新聞 / 2024年10月17日 15時20分

近年は文学賞の選考委員も務める。「これまで読んだことがない小説にも出会えるので、エキサイティングな体験です」(東京都内で)

芥川賞から20年 「テーマなくならない」

 作家の金原ひとみさん(41)が書き下ろし長編小説『ナチュラルボーンチキン』(河出書房新社)を刊行した。45歳の女性を主人公に、新たな出会いと再生をつづる。人の心のひだをすくい取るような作品を発表してきた作家は、中年が見るかすかな希望を描き、物語の新しい地平を切り開いている。(池田創)

俯瞰できる年代

 「40代って自分の人生の限界が見えてきて、爆発的な喜びもなく、あらゆることが俯瞰ふかん的に見えてくる頃だと思う。その時期に人間が何から逃れたがっているのか、何を乗りこえるために新しい関係性を築こうとしているのかを表現したかった」

 主人公の浜野文乃は出版社の労務課に勤務し、職場と自宅を往復し、簡単な炒めもので夕飯を済ませ、スマホでドキュメンタリーやドラマを見る。現代人にありがちな生活スタイルだ。文乃は<仕事と動画とご飯というルーティン。それが私で、私の生活だ。自分には何もない>と心の中でつぶやき、加齢による身体の変化を感じながら、幸福でも不幸でもない生活を送る。ホストクラブ通いをしている編集者の平木直理と出会ったことから、物語は大きく動き出す。

 主人公の着想はコロナ禍で自粛生活が続く中、久しぶりに知人に会ったことだったという。知人は外出ができない生活を送りながら、毎日焼き肉のタレで作った肉野菜炒めを食べている、と楽しそうに話していた。「悲壮感ではなく、充実感があった。ルーティンを重んじる人を描いてみたいと思ったのが始まりだった」と語る。

リアルな恋愛

 得意とする大人の恋愛も大きなテーマになっている。主人公はバンドのメンバーである男性と出会い、少しずつ心を通わせていく。作中では無料通信アプリ「LINE」を使って、「カニが好き」ということを短文で伝える際に、文章で思い悩む場面が印象的だ。現代の恋愛のリアルを巧みに織り込んでいる。

 「相手によっては、文章を何度も何度も推敲すいこうする。自分の子どもたちも、相手に嫌な思いをさせないよう語尾に気を使っている。便利でありながら、難しいツールですよね」

 本作は、温かな希望に包まれながら幕を閉じる。「前向きな小説を書くのが私にとっての新しい挑戦だった」と振り返る。

 2004年に『蛇にピアス』で芥川賞を受賞して、今年でちょうど20年がたつ。「デビューしたてだったので、波にのまれるがままに取材を受けていた。お祭りみたいな日々だった」

 子育ての孤独と重圧を描いた『マザーズ』、結婚生活に悩む男女の物語『アタラクシア』など、現代人の心と性、その奥底に潜む感情に真っ正面から向き合う作品を次々に発表し、着実にキャリアを積み重ねてきた。「時代も変わっていくし、人も変わっていく。時代と人を掛け合わせることで、書くテーマはなくならないと思っている」

 今後の執筆活動について、「新しいものや、未来に焦点を当てていきたい」と語る。「コロナでは人の普段見えない部分がむきだしになった。作家として、そういう変化や驚きは書き逃したくない」

 ここ数年は新しい趣味として、山登りに精を出す。「最初に登った時は、へろへろになりながら、なんとか下山できました。自分の限界に挑戦して、突破している感じかな」。目をくりくりとさせながら笑った。

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