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「私たち俳優はインテリア業者」…韓国の名優チェ・ミンシクが語る新作「破墓/パミョ」と映画に臨む思い、そして大杉漣の一言

読売新聞 / 2024年10月17日 11時0分

インタビューに答えるチェ・ミンシクさん=秋元和夫撮影

 韓国の俳優、チェ・ミンシクが、主演作「破墓/パミョ」(チャン・ジェヒョン監督)の10月18日からの日本公開を前に来日した。韓国映画の現在の活況の導火線となったメガヒット作「シュリ」(1999年)、2004年のカンヌ国際映画祭グランプリ(審査員特別大賞)を受賞した「オールド・ボーイ」(03年)をはじめ、幾多の作品で忘れがたい演技を見せてきた62歳の名優。映画に臨む思いを尋ねると、自らを「インテリア業者」にたとえた。どういうことか。いろいろ聞いてみた。(編集委員 恩田泰子)※文中敬称略

熟練の風水師演じる

 「破墓」は、超自然的要素がたっぷりの超常スリラー。ある裕福な一族を苦しめてきた奇病の連鎖の原因は、家族の墓にあり。そう踏んだ巫堂(ムーダン)(韓国のシャーマン)の女(キム・ゴウン)とその弟子(イ・ドヒョン)は、熟練の葬儀師(ユ・ヘジン)、風水師(チェ・ミンシク)とともに、改葬を進めようとする。が、墓に潜んでいた「やばいもの」が、まがまがしい事態を引き起こす。

 監督・脚本のチャン・ジェヒョンは、「プリースト 悪魔を葬る者」(2015年)、「サバハ」(19年)といったオカルト的な要素をはらんだ作品で評価を高めてきた。

 「破墓」では、奇想に富んだストーリーを、分厚い映像と演技巧者たちのチームプレーとともに描き出し、観客を、映画の中へ引き込んでいく。巫堂たちによる臨場感たっぷりのおはらいシーンなど派手な見せ場だけでなく、登場人物たちのちょっとした一挙一動が作品に厚みを出す。たとえば、チェ・ミンシク演じる風水師キム・サンドクが墓周辺の土をすばやく確かめる様子はさりげなく効果的だ。

 もっとも、チェ・ミンシク自身は「怖いのが苦手なので、個人的には、オカルト的な作品はあまり好きではありませんでした」と明かす。では、なぜ、そのキャリアの中でも異彩を放つ本作への出演を決めたのだろう。

「助監督のような気持ちで臨んだ」

 「この作品に臨むとき、私は、風水師キム・サンドクを演じるということに加え、チャン・ジェヒョン監督が映画をつくる作業過程を見てみたいという思いを抱いていました。『プリースト』や『サバハ』を見て、とてもいい作品だと思っていたのです。チャン監督は、非現実的なもの、形而上(けいじじょう)学的なものを、リアルに描いて観客のみなさんに届けるような作品を作る。細密な模様をびっしりとすきまなく織り込んだカーペットのように、映像をひとつひとつ彫刻して完成度を高めていく」

 韓国メディアのインタビューの中には、「助監督のような気持ちで臨んだ」という発言を紹介しているものもあった。

 「そういう表現になったのは、チャン監督の映画づくりのプロセスを見てみたいという思いがあったからかもしれません。また、私の仕事の仕方の特徴の一つは、自分の意見を押し通すのではなく、監督が要求する方向性を最大限尊重しようということ。今回もチャン監督のディレクションに99%従って演じてみるということをしました。その点も『助監督のように』という話につながったのかもしれません」

映画は「監督の芸術」

 99%従ってみた今作の結果について問うと、「本当に満足しました」と即答だった。「私は映画づくりで大切なのは、作り手のテーマ意識や主観だと思っています」。出演作を選ぶ時にも、脚本だけでなく、その点を重視するという。

 「監督の考えに共感できるかどうか、そこがまず、優先順位としては先になります。目で文字を読む、活字でドラマを読むのは大切なことですが、絶対的ではないと思います。オカルトであろうと、社会性の強いドラマであろうと、ロマンスであろうと、監督がどんな視点でストーリーを見ているか、監督の考えが、ひとつの映画のクオリティーを決め、その成否を左右する。だから映画は『監督の芸術』と言われるんですよね」

 そして「私たち俳優は下請け業者です」とにこにこと笑いながら言った。「インテリア業者ですよ」と。どういうことか。

 「まず監督が家を建てますよね。骨組みに始まり、壁を作って屋根をかけて……。でも、インテリアをどのようなものにするかによって、家が引き立つこともあれば、あまりいいものに見えなくなったりもする。そういう意味で、私はインテリア業者です」

監督が明かしたキャスティングの理由

 では、「破墓」に関しては、監督のどんなビジョンに共感したのだろうか。

 「私はもともと、魂と人との関係、魂と自然の関係、自然と人の関係など、形而上的な事柄に興味を持っていました。非現実的なモチーフやストーリーに対しても、関心はあったんです。だから、チャン監督がオカルト的な作品をつくる時の考え方や哲学も含めて、制作プロセスが気になっていたのです」

 また、「私から監督にキャスティングの理由を聞いたことがあるんですが、それに対して、『これまでチェ・ミンシクさんは加害者の立場でのドラマが多かったけれど、今回は被害者のチェ・ミンシクさんが見てみたい。恐怖におののいている姿を見てみたい』と、面白いことを言ってくださったので、それも出演の理由になりました」とも言う。

俳優たちの「後ろが見える」作品

 「破墓」は、メインキャスト4人のチームプレーも大きな魅力だ。この人と、名バイプレーヤーのユ・ヘジンというベテラン2人、そして、キム・ゴウン、イ・ドヒョンという年下の実力者2人のアンサンブルは、それぞれが演じる役柄ともどこか重なって見える。

 「演劇の公演に対して、『俳優たちの背景が見える、後ろが見える』という表現が使われることがあります。それは、いいチームワークで練習してビルドアップしてきたことが垣間見えるような舞台に対する言葉です。そういう舞台は、当然、悪いはずがないんです。一方、それぞれがプライドを持ちすぎて、ぶつかりあって不和を生んでしまっているようなチームからは、いい作品が生まれにくい。今回、私たち『破墓』のチームは、チームワークがとてもよかった。それが私のこの作品に出演して得た満足感の一つになっています」

「これは映画ですよね」

 この映画には、韓国と日本の過去を投影した怪物的な存在が出てくる。それについて、日本の観客の反応は気になるかと問うと、ほんの少し間を置いて、「これは……映画ですよね」という言葉が返ってきた。

 「オカルト、ホラーの分野において、アジアの先頭走者のような役割を果たしてきたのが日本。こういう一つのジャンルの映画なのだと、観客のみなさんも理解してくださると思っています。だから、その点では、あまり負担を感じていないんです。日本のみなさんでしたら、きっと映画として愛してくださるでしょうし、『これは映画だ、これは一つの題材なんだ』というふうに思って見てくださると信じています」

 さらに続けて語ったのは、「隻眼の虎」(2015年)という作品で共演した大杉漣(18年に急性心不全で死去)との会話について。日本統治下の慶尚南道を舞台にした同作で、大杉は、支配者然としたふるまいをする日本人の高官を演じた。

 「私のほうから、『この役を演じることにプレッシャーはないですか、負担は感じませんか』と質問を投げかけたところ、大杉さんの答えは明快でした。『これは映画ですよ』と。私は、『はい』とお返事しつつ、やはり、俳優さんだな、とその時思いました。大杉漣さんは、本当にすてきな俳優さんでした」

俳優としての「資産」は

 1980年代初め、演劇の世界から俳優の道に入り、89年のスクリーンデビューからは35年。新たな領域を開拓し続ける。どうすればそんなふうに自身をアップデートしていけるのだろうか。何か大切にしていることはあるのか、最後に聞いてみた。

 すると、「特にないんですけれど、『逃さないようにしよう』と思っています」という答えが返ってきた。

 「どういうことかというと、社会的現象や人間関係において、いい感情を味わうこともあれば、悪い感情を味わうこともありますよね。私は、自分の感覚が鈍らないように、それらすべての感情を『取っておこう』と思います。そんなふうにさまざまな感情を味わっていくうちに、それが言ってみれば、データベースとして保存されているような感じになるんですよね。それは俳優である自分にとって一つの資産になっています」

 また、「本を読んで感じた気持ちだったり、映画や舞台、コンサートを通して得たインスピレーション、人生の中で出会う人たちとともに体験した出来事などの記憶も、できる限り、残していく努力をしています」とも。「そうやっていると、やっぱり人生、疲れてしまうこともあります。ある時には消さなければいけないこともありますし、笑い飛ばしてしまうこともあるんですけれどね」

 ※「破墓/パミョ」(配給:KADOKAWA、KADOKAWA Kプラス)は10月18日から、東京・新宿ピカデリーほか全国公開

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