「ミュージアム、自由に思い出のモノを見てほしい」「モノづくりへのチャレンジに投資」…任天堂 宮本茂・代表取締役フェロー
読売新聞 / 2024年10月18日 14時32分
任天堂は、国内で販売したほぼすべての家庭用ゲーム機やソフトを展示する「ニンテンドーミュージアム」(京都府宇治市)をオープンした。人気キャラクター、マリオの生みの親として知られる宮本茂・代表取締役フェローに話を聞いた。(仁木翔大)
任天堂らしさ継承
――なぜ、ミュージアムを作ったのか。
「何年か前からいろいろな資料を残してきた。特にアーケードゲームの頃の資料は動かないと意味がない。動く状態を維持するのがすごく大変だった。ライセンシー(サードパーティー)のソフトも含めると、毎年、何百本と残っていく。それをパッケージのまま置いておいても仕方がないので、何とか管理しなくてはいけないということがあった。
もう一つは僕は、毎年、新入社員に任天堂のことを説明する時に、だいたい2時間しゃべっていたのが3時間になって、ほとんどが任天堂はなんぞやと説明する時間になってきた。それなりに面白がってはくれるが、20年くらいやると、いい加減、引退したいと思うようになった。その時の話が展示のベースになっている。
任天堂の社員にも愛が強い開発者がたくさんいて、Wiiの時は積極的に開発をしてくれた。今のゼルダにつながって、何千人のスタッフになった時に、果たしてそうした思いを残していけるか、引き継いでいけるかと。社内でも『任天堂らしさを維持していかなあかんよね』ということが話題になってきた。
そういう時に、宇治の工場をどうするかという話が出た。売るという選択肢もあったが、残したいと話したら、ミュージアムにしたらどうかとなった。鳥羽街道(京都市)にも本社があり、工場もあったので、どちらかでミュージアムをやろうと決めた。結果的に宇治の方がバスのアクセスが良いとなった。
過去の資産を全部残して、それを通じて任天堂を理解してもらうのならば、社員だけではなく、親子3代で知っているような人にも来てもらってわかってもらえたらいいなと。ゲーム機戦争とか呼ばれて、スペックや性能の競争に巻き込まれずに、世の中の技術を使って任天堂らしいものづくりを続けたい。ゲームに限らず、映像もやり、エンタメコンテンツを作っていく会社だと理解してもらうきっかけになると考えた」
「おもしろい」伝える
――どのように楽しんでもらうのか。海外にも作るのか。
「自由に思い出があるモノを見てもらえばいい。そこで僕らがおもしろい発見ができたらもっといいかと思う。海外の人に見たもらおうと、すべてをローカライズはしていない。できるだけ、見るだけでわかる展示にしている。いろいろな体験をしてもらい、任天堂がおもしろいということを伝えるのが上手な会社なんだなと思ってもらえたらいい。
このミュージアムは、ビジネスで展開しているのではなく、任天堂のことをわかってもらうためのものだ。あちこちに展開するつもりはない。例えば、アートギャラリーと呼んでいる部屋は、マリオのドットやコースの地形のスケッチが並んでいる。ぐるっと回ると、『スプラトゥーン』や『ゼルダの伝説 ティアーズオブキングダム』のイラストを飾る。今後の展開に合わせて増殖していくと思う」
――思い入れのある展示は。
「限定できない。僕は業務用の『ドンキーコング』を作って、そこからファミコンに移って、思い出は深いが、それ以降のハードを設計するコンセプトもどれも思い入れがある。業務用のドンキは、ほとんど社外のプログラマーと一緒に、箱もイラストも設計した。『ブロック崩し』や『レーシング112』は入社当時にすべてやった。どれも思いがある。
コントローラーだけの展示をしているコーナーでは、業務用のドンキからゲーム&ウォッチへの移植で十字ボタンが生まれ、それがファミコンでプラスの形をしたキーになり、ジョイパッドの原型になった。スーパーファミコンでは、LRボタンやアナログ(3D)スティック、Wiiのモーションコントローラーやポインティング、ほとんどが世界初、ゲーム機で初めてだったことを紹介している」
――ミュージアムの発信を任天堂の成長戦略にどう生かすか。
「倉庫で眠らせるのはもったいない。見える場所に出すのが一番の目的で、中長期戦略とはあまり関係がない。『任天堂って、ゲームの競合メーカーや先端技術と関係ないところにある会社なんだな』と思ってもらえることが大事だ。
アナリストからは、『どうしてネットワークをやらないのか。モバイルはどうか。先端チップをなぜ使わないのか』と聞かれる。冷静に見たらやっていて、一番適正な売り時が来た時に商品化している歴史を見てもらって信用してもらい、株主の皆さんにも知ってもらう。そういう意味では中長期展望になるかもしれない」
――ミュージアムから、任天堂の将来像をどう見るか。
「任天堂は50年、60年前くらいからの遊びをその世代に合わせてグレードアップしたり、リニューアルしたりしてきた。小学生は6年で卒業するが、世代に合わせたレイヤー(階層)は常にある。それだけでも結構大きい。
あとはこれまで積み上げてきた流れから、あまり逸脱しないものをみんなで作ることで任天堂らしさはできていくと思う。変革を望まないのではなく、チャレンジで新しいものを作っていくが、ベースに流れるコンセプトである『家族や遊び、わかりやすさ』が社員に根付けば、新しい任天堂は膨らんでいくと期待している」
次の世代が何を生み出すか
――任天堂の将来像は。
「次の世代の人たちがどんなものを生み出すかで決まっていく。1枚のカードでがらっと市場が変わるのが、娯楽の世界のおもしろいところだ。それくらいの革命が起きたらいいと思っている。
世の中のあらゆるところが、いかに利益を上げるかということに動きすぎている。任天堂は映像作品の制作に出資している。できあがっておもしろくなかったら、売らないということができる。お金を出してもらって作ったら、それができない。失敗しないことを前提にしたら、チャレンジできない。
チャレンジできるという意味では、任天堂は盤石な基盤がある。これからも、モノをつくるためのチャレンジに投資できる会社になっていけたらと思う。そういう会社が増えたら、クリエーターはチャレンジできるし、作家は自由に作れる。僕が任天堂を選んだのは、タニマチになってくれる会社だと考えたからだ。トランプの利益で自由にやらせてくれると思って入ったら結構大変だったが。
今の任天堂は、おもしろいスポンサーができる会社になってきたと思う。新しいチャレンジができる環境を作りたい」
◆宮本茂氏(みやもと・しげる) 1977年金沢美術工芸大卒、入社。ゲームデザイナーとして「ドンキーコング」や「ゼルダの伝説」などの人気作を生んだ。「現代ビデオゲームの父」とも言われる。専務などを経て2015年、代表取締役フェローに。19年に文化功労者に選ばれた。京都府出身。
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