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出産費用の保険適用、少子化対策の解決策になる?

読売新聞 / 2024年10月18日 13時0分

 出産費用の保険適用に向け、政府が検討を進めています。現在は医療機関が独自に設定している費用が全国一律の公定価格になることで、妊婦の経済的な負担の軽減や地域格差の解消が期待されます。政府は保険適用を少子化対策と位置づけていますが、解決策となるのでしょうか。

[A論]少子化の歯止めに…経済的な不安減る

 神奈川県内の会社員、鈴木由希絵さん(34)は今年1月、次女を出産しましたが、妊娠中は、つわりに悩まされました。妊娠初期から食べても吐いてしまう状態になり、仕事を休んで1週間入院。出産予定日の約2か月前まで働き続ける予定でしたが、退院後も重いつわりが長引き、職場復帰できないまま、出産の日を迎えました。

 鈴木さんは「妊娠中は予定外の出費があることや、思うように働けないことを身をもって知った。出産そのものにかかるお金の心配が少なくなることは不安が減っていい」と話します。

 出産費用は正常分娩ぶんべんの場合、けがや病気ではないため保険適用外となっています。現在、原則50万円の出産育児一時金が支給されていますが、出産費用は年々上昇しています。一時金を増額しても、費用がさらに上がる「いたちごっこ」の状況が続いています。

 東京都内に住む会社代表の本山勝寛さん(43)は、1~15歳の6児の父です。出産費用は毎回数十万円の自己負担があったといい、夫婦で一緒に子育てをしようと育児休業を取得し、残業を減らすと、出費と減収が重なる時期もありました。

 本山さんは「時間的、精神的負担もあるが、何より負担が大きかったのは、出産費用だった。喜ばしいことなのに、家計のやりくりの苦しさにジレンマを感じた。次の子を考えるとき、経済的な要因は大きく影響する」と話します。

 こうしたなか、岸田前首相は2023年1月、「次元の異なる少子化対策」を打ち出しました。その後、実現に向けた「こども未来戦略」が閣議決定され、出産費用の保険適用が掲げられました。政府の有識者検討会で今年6月から、議論が始まっており、26年度の導入を目指しています。保険適用になった場合、通常は3割の自己負担が生じますが、妊婦に負担は求めない方針です。

 子育て政策に詳しい東京大の山口慎太郎教授(経済学)によると、出生率と各国の公的な家族支援に対する支出は、相関関係があるといいます。

 経済協力開発機構(OECD)の調査では、対国内総生産(GDP)比でみた同支出(19年)はフランスとスウェーデンがともに3・4%で、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す「合計特殊出生率」(21年)は、それぞれ1・8、1・7と高い水準でした。一方、日本は同支出がOECD平均の2・3%を下回る2・0%です。

 山口教授は「他の先進国と比べ、日本は子ども政策に充てられる支出の割合が低い」と指摘しています。

[B論]ケアや育児支援も…パッケージで考えて

 出産費用の不安が解消されても、次の妊娠・出産を前向きに考えることにつながるわけではないとの意見も多くあります。

 1歳の男児がいる神奈川県内の公務員、竹内枝里子さん(38)は出産後、胸の張りで眠れなくなり、精神的にも追い詰められていたとき、自宅近くの産後ケア施設を利用しました。授乳のアドバイスを受けて張りが収まり、気持ちも持ち直しました。竹内さんは「出産にかかる費用以上に産後の心身の大変さを実感した。寄り添ってくれる存在は大切。産後ケア施設の充実などにもっと目を向けてほしい」と訴えます。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2023年の日本人の出生数は72万7288人、合計特殊出生率は1・20まで落ち込み、いずれも過去最低でした。

 東京都内で学習塾を運営する会社社長の後藤高浩さん(58)は「お金だけの問題ではないのでは。結婚や出産に対して良いイメージを持てない若者が増えているように感じる」と指摘します。4児の父で、ファイナンシャルプランナーとして様々な相談も受けてきました。「将来のビジョンを考える大切さや、家庭を持つ幸せを伝える教育など、やることはたくさんある」と語ります。

 少子化は、複合的な要因で起きていると考えられます。未婚化や晩婚化の進行のほか、例えば、男性の育児参加なども影響します。 最近の意識調査では、2人目以降の出産を前向きに考えられたサポートとして「配偶者の家事・育児への参加」を挙げた人が多くいました。21年、男性の育児休業取得を促す改正法が成立し、取得率は年々上昇しています。とはいえ、まだ30・1%(23年度)で、30年までの政府目標の85%を大きく下回っています。

 ニッセイ基礎研究所の三原岳・上席研究員は「出産費用の保険適用という単発的な施策が、出生率に対して直接的に影響するとは考えにくい。母子保健や児童福祉など、様々な課題をパッケージとして同時に議論していくことが重要だ」と指摘します。

 産科医療の現場には、保険適用で全国一律の診療報酬が設定されれば収入が減り、医療提供体制を維持できるか不安視する声もあります。出産費用は地域差が大きく、22年度は最も高い東京都が約61万円、最も低い熊本県が約36万円と1・7倍の開きがありました。

 産科医療機関が経営難で減少し、身近な地域で出産できなくなれば、不安感につながり、かえって少子化に拍車をかける恐れがあるため、慎重な制度設計が求められます。

「産みにくい」日本

 日本の出産を取り巻く環境について、子育て世代がどう捉えているか調べると、多くの人が「産みにくい」と感じている実態が浮かび上がります。

 公益財団法人「1more Baby応援団」は2013年から毎年4月、既婚の男女約3000人を対象に意識調査を実施しています。24年は「日本が産みやすい国に近づいていると思わない」と答えたのは76・8%に達し、同じ質問を始めた17年以降、過去最悪でした。

 2人目以降の出産をためらう「2人目の壁」について、「存在する」と答えたのは78・9%で、過去最高となりました。その理由(複数回答可)では、子育てや教育など家計が見通せない「経済的な理由」(73・4%)がトップで、次いで「第1子の子育てで手いっぱい」(45・3%)などが続き、多くの要因が影響していることがうかがえます。

 国や自治体は教育費や育児など様々な支援策を拡充しています。そうした中で、自身が子どもを産む後押しとなる支援制度を尋ねると、20歳代では「出産費用の助成」が6割を超えました。

 同法人の秋山開専務理事は「東京などでは特に出産費用が高く、若い人は費用捻出のため貯金から始める人も多い」と説明します。

 公的な支援があっても、子育て世代の環境改善には至っていないとも指摘します。「子育て世代の気持ちの変化には結びついていない。多岐にわたる課題を一つひとつ解消していくしかない」と話しています。(医療部 鈴木希、安藤奈々)

[情報的健康キーワード]ディープフェイク

 生成AI(人工知能)によって作られた政治家や芸能人の精巧な偽動画や画像、音声を「ディープフェイク」と呼びます。専門的な知識がなくても素早く作成できるため、問題になっています。

 米国では、大統領選で特定の候補をおとしめる偽画像が出回っています。韓国では、女性の写真を無断使用した偽の性的動画や画像がSNSで拡散しました。日本でも著名人の動画を用いた投資詐欺や、災害時に偽画像が投稿されて混乱する問題が起きています。

 生成技術が進化し、すでにAI製かどうかすぐには見極められないレベルに達しています。これに対抗する検出や拡散防止技術も十分とは言えません。ネットを利用するときは、悪意を持って偽動画を作成し、発信する人がいることを前提に見ることが必要です。

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