日本郵便の不正 信頼損ねる顧客情報の流用
読売新聞 / 2024年10月18日 5時0分
全国の郵便局で長年、法令に違反する顧客情報の流用が続いていた。国民に親しまれる地域の拠点であるだけに、法令順守の意識を組織全体に徹底させねばならない。
日本郵政グループの日本郵便は、全国の郵便局がゆうちょ銀行の顧客情報を不正に流用し、保険商品を営業するためのリストを作成していたと発表した。2014年2月以降で、少なくとも155万人分に上るという。
郵便局は、ゆうちょ銀とかんぽ生命保険の金融2社から商品の販売などの窓口業務を委託され、手数料を得ている。2社の顧客情報を把握できる立場だ。
それを利用して作成したリストを基に、一部の郵便局では、景品をプレゼントするイベントなどにゆうちょ銀の顧客を誘い出し、保険の勧誘をしていたという。
保険業法は、顧客の口座残高といった金融情報を保険の勧誘に使う場合には、事前に顧客から同意を得るよう定めている。今回はそうした手続きを経ておらず、法令違反は明白だ。見過ごしていた経営陣の責任は重い。
日本郵政グループは、07年の民営化前までは、郵便と貯金、簡易保険という三つの事業を一体で運営していた。顧客情報の利用は慣例になっていたという。
民営化に伴い、各事業が分社化されたため、同じグループに属しているとはいえ、顧客の同意を事前に得ることが法律上、必要になった。だが、現場では、顧客が来局した後に同意を得れば、問題ないと認識し続けていたという。
保険業界では顧客情報の無断流用などが相次ぎ、金融庁が調査に入っている。日本郵政グループも民営化された以上、他の民間企業と公平に競争していくためにも、保険業法を守る必要がある。
今回の問題を受け、日本郵便はシステムを改修し、ゆうちょ銀の顧客情報を検索できないようにする。当面、来客を促す保険や貯金の営業活動も自粛するという。
日本郵便は郵便事業が2年連続の営業赤字となり、10月から郵便料金を値上げして収益の改善を図ったばかりだ。不正は収益の圧迫要因になり、そのツケは重い。
日本郵政グループは19年にも、かんぽ生命と日本郵便が一緒になって、高齢者への強引な勧誘など不適切な販売を行っていたことが社会問題化し、苦境に陥った。
全国に約2万4000ある郵便局は、生活を支えるインフラだ。国民の信頼が大きな財産であることを肝に銘じてほしい。
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