投票所が1か所減ると、投票率はどうなるか…「職員や立会人確保難しい」前回から半減する自治体も
読売新聞 / 2024年10月23日 14時10分
27日に投・開票日を迎える衆院選。ただ、その日に投票できる「当日投票所」の数が減り続けている。今回も前回(2021年)の衆院選に比べ、1026か所が減る見込みだ。人口減による過疎化や地域の統廃合などが原因で、各選挙管理委員会は「激変緩和措置」に知恵を絞る。しかし、当日投票所の減少は投票率低下の大きな要因と指摘するデータもある。果たして今回の投票率はどうなるだろうか。(デジタル編集部 石原宗明)
投票所数が半分に、タクシー利用に補助
岩手県奥州市の選挙管理委員会の担当者は、「前回の投票率63・49%をできるだけ維持するのが目標」と話した。前回は83か所あった当日投票所が、42か所にほぼ半減したからだ。
同市は、2006年に水沢市など5市町村が合併して誕生。投票区の見直しも検討したが、総務省が「遠距離地区(投票所から選挙人の住所まで3キロ以上)の解消に努める」などの運営の目安を示していることもあり、投票所は統廃合せずに維持してきた。
しかし、投票所を運営する職員や投票立会人の確保が難しくなった上、投票区ごとの選挙人名簿登録者が最少区で57人、最大区は3676人と差が開くなどしたため、効率的な運営を目指して、21年に当時84か所あった投票所を半減することを決めた。
再編後に初めて行われた22年の市長選では、廃止された42か所の投票所のうち、21か所を期日前投票所に。タクシーで投票に行く人に最大600円(往復)の補助も行う「激変緩和措置」も取った。それでも、投票率は前回市長選を7・6ポイント下回る56・65%だった。
今回の衆院選でも緩和措置を行うが、担当者は「再編によって、投票しづらくなったと思っている市民はいるはず。利便性を高める方法を考えていきたい」と話している。
「共通投票所」で投票率が上がった例も
総務省によると、衆院選の当日投票所は、2000年の5万3434か所をピークに減少し続け、21年の前回選には4万6455か所に。今回選では4万5429か所になる見通しで、そのうち1万7813か所が閉鎖時刻の繰り上げなども行う。
代わりに期日前投票を利用する人は増え、前回選では投票者約5890万人のうち、期日前投票利用者は約35%に上った。ただ、期日前投票所の開設にも人手がかかる。
そのため、最近広がってきたのが、当日投票所を減らした上で、同じ自治体の有権者であればどの投票所でも投票できる「共通投票所」を運営する動きだ。
群馬県邑楽町では2022年、投票立会人の確保が難しくなってきたことなどから、期日前投票所は1か所のままとし、12か所あった当日投票所を5か所に減らして共通投票所とした。投票所までの距離が遠くなった住民には、タクシーを無料で利用できる券を交付した。
その結果、同年の参院選の投票率は、1・23ポイント増の53・35%。全投票者1万1548人のうち1割が、これまでの投票所とは違う場所で投票を行った。タクシーの利用も80件。町選管担当者は「車文化なので買い物ついでなどに行きやすい場所で投票できるメリットを感じてもらえたようだ。今回の衆院選でも同様に対応したい」と話す。
総務省管理課は「当日投票所を減らしてはいけないということはない。人口減少の進み方なども地域ごとに異なるため、実情に応じて、適切な形で設置運営してもらいたい」としている。
投票所1か所減で0・51ポイント減少
投票所の増減は、投票率にどれほど影響するのか――。投票参加について研究する大阪大の松林哲也教授(政治学)は「選挙当日の投票所が1か所減ると、投票率は0・51ポイント下がる」と指摘する。
松林教授は2014~21年の3回分の衆院選について、全国約1700の市区町村の当日投票所数と、期日前投票所数のデータを収集。政治経済状況など、投票率に影響を及ぼす要素を取り除いて分析を行った。
すると、当日投票所の平均値(1万人当たり5か所)から1か所減ると、投票率は0・51ポイント下がっていた。「投票所が遠くなると必要な時間や労力が増えるので、投票を面倒に思うことなどが要因とみられる」と松林教授は分析している。
一方、期日前投票所の平均値(10万人当たり5か所)から1か所増えると、投票率は0・16ポイント上がることも分かった。利用者の多い駅前や大型商業施設での設置が進むことで、投票率の向上につながる可能性があるという。
高齢者や主婦、会社員など、どういった層がどの投票制度を活用するかについては研究中といい、松林教授は「我々は投票に行くかどうかを決める時に、ベネフィット(利益)とコスト(費用)を比較している。好きな政策を実現してくれそうな政党が勝利する喜びなど、投票につながるベネフィットもあるが、不確定でもある。利便性をどう高め、投票までの時間と労力のコストをどれだけ減らせるかが、投票率向上の鍵となる」と指摘している。
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