「給料デジタル払い」導入企業たった4% 「希望者がいない」「リスクが心配」「手続きが複雑」...それでもキャッシュレス化進めるには?
J-CASTニュース / 2024年10月22日 19時16分
スマホに給料が入っている!(写真はイメージ)
2024年9月、第1号「PayPay」(ペイペイ)のサービス一部開始で、スマホ決済アプリを使った「給料デジタル払い」がスタートしたが、導入に前向きな企業はわずか4%だという。
帝国データバンクが2024年10月16日に発表した「企業の『賃金のデジタル払い』対応状況アンケート」で明らかになった。
政府のキャッシュレス化推進事業の柱として2023年4月に始まった事業。いったい何が問題なのか。調査担当者に聞いた。
「手続きが複雑」「セキュリティーに不安」の声が大多数
帝国データバンクの調査(2024年10月4日~10日)は、全国1479社が対象。
給料デジタル払いの対応を聞くと、「導入に前向き」な企業は3.9%にとどまり、「導入予定はない」(88.8%)が9割近くにのぼった【図表1】。
「導入に前向き」な企業に理由を聞くと、「振込手数料の削減」(53.8%)でトップ。次いで、「従業員の満足度向上」(42.3%)、日払いや前払いのしやすさから「事務手続きの削減」(32.7%)が続いた【図表2】。
企業からは「支払いが楽になる」(メンテナンス・警備)といった声があがる一方、「小さな会社での導入は可能かどうかや、実際の事務作業の流れ、必要な手続きなどを知りたい」(情報サービス)といった声も寄せられた。
前向きに考えている企業でも制度・サービスに関する情報や理解が十分でない様子がうかがえた。
「導入予定はない」企業に理由を聞くと、デジタル払いと口座振込の二重運用や労使協定の改定など「業務負担の増加」(61.8%)がトップに。次いで、「制度やサービスに対する理解が十分でない」(45.0%)、「セキュリティー上のリスクを懸念」(43.3%)が4割台で続いた。
企業からは、「振り込み処理が複雑になる」(機械製造)や「セキュリティーが十分とは思えず、従業員も不安に思っている」(服飾品製造)など不安な声があがった。さらに、「地方ではデジタル払いのできる店舗が限られる」「従業員からの要望がない」などの意見も聞かれた。
制度が始まり2か月足らず、まだまだこれからという段階
J‐CASTニュースBiz編集部は、帝国データバンク情報統括部の調査担当者の話を聞いた。
――調査結果では、「導入に前向き」が約4%、「導入予定はない」が約9割。ズバリこの結果をどうとらえていますか。
調査担当者 中小企業の多くはまだ導入予定がない結果となっています。ただし、それは否定的というより、まだまだ制度に対する理解の進展や情報の少なさ、リスクに対する不安からくるものとみています。
また、前向きな企業ですが、約4%という数字はやや少なく感じましたが、実質的に制度がスタートしてまだ2か月足らず。そこを踏まえると、まだまだこれからという段階ですので、今後の経過に着目したいと思います。
――「給料デジタル払い」について、企業側/労働者側からみたメリットをどう考えていますか。
調査担当者 企業側からみたメリットは、まず振込手数料の削減があげられます。資金移動業者の口座への送金手数料は銀行口座への振込手数料に比べて、安く設定されることが多いためです。
また、給与のデジタル払いを希望する従業員の満足度の向上に加えて、日払いや週払い、前払いなども行いやすく、事務手続きの削減が図れるといったメリットもあります。
労働者側からみたメリットは、デジタル払いを日常的に活用している従業員にとって、支給された給与の電子マネーへのチャージの手間が省けて、利便性が高いという点があげられます。また、銀行口座と併用することでライフスタイルに応じた金銭管理ができる点もメリットと言えます。
今のところ、従業員の満足度向上というメリットが弱い
――デメリットとしては何が考えられますか。
調査担当者 企業側からみたデメリットは、デジタル払いと口座振込の二重運用や、労使協定の改定などによる業務負担の増加や人事給与システムの改修などの費用の増加があげられます。
労働者側からみたデメリットは、現時点で「PayPay」しか選択肢がないため、好みの資金移動業者を選定できない点があります。また、デジタル払い利用頻度の増加による詐欺や不正出金被害リスクも増大します。さらに、業者の破綻によるサービスの中断・停止も心配です。それに、地方などでは活用できる店舗が十分でないこともあげられます。
――そうしたメリットとデメリットを考えると、これほど「導入に前向き」な企業が少ないのは、企業にとってメリットよりもデメリットのほうが大きいということでしょうか。
調査担当者 調査結果の企業のコメントをみると、特に従業員の満足度の向上というメリットが弱いと言えます。企業からは、「デジタル払いを利用する従業員が少ない」や「地域でデジタル払いができる店舗が限られる」「社内アンケートを実施したが、希望する者はいなかった」などの意見があがりました。
他方、企業にとって大きな負担になるデメリットは、開始時にかかる「業務負担の増加」と言えます。「振り込み処理が複雑になる」や「手続きに手間がかかりそう」などの声が聞かれました。また、「システム障害などのリスクがある」との声もあり、「サービスが中断・停止に陥る」といった新たなリスクの存在も導入を妨げる大きな要因と考えられます。
導入する際は既存システムと連動させるとか、企業の手間を減らすサービスを
――「PayPay」以外にも「auペイ」など数社の事業者が厚生労働省に申請を出しています。今後、給料デジタル払いを広げるためには、何が一番重要な課題でしょうか。
調査担当者 重要な課題は、デジタル払いそのものの利用拡大と考えます。それを改善・解決していくためには店舗などでのデジタル払いの導入と消費者のデジタル払いの利用を促す政策の強化が大事と言えます。
また、企業からは「関心はあるものの、何をどうすればよいか分からない」などの声も複数ありました。企業に制度やサービスに対する理解の進めることも大きな課題になるでしょう。関連機関によるきめ細かい情報の周知が求められます。
さらに、業務負担の軽減も重要です。導入する際は既存システムと連動させるとか、企業の手間を減らす商品・サービスの設計・提供などが改善のカギとなり得ます。
――なるほど。課題がたくさんありますね。今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。
調査担当者 キャッシュレス化がさらに進み、全国的にデジタル払いに対応する店舗や施設が増えれば、賃金デジタル払いのニーズが拡大するでしょう。そのためには、制度・サービスに関する情報が行き渡ることが必要ですが、同時に手続き・運用を簡素化し、セキュリティーの強化を図ることも大切です。そして何より、万が一のときのトラブルへの十分な備えが求められます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
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