[プレーバック応氏杯…2]一瞬の隙を突く妙手で一力遼棋聖が先勝…師匠の宋光復九段「気持ちの入った勝利」
読売新聞 / 2024年10月25日 11時30分
一力遼棋聖が中国の謝科九段に3連勝した決勝五番勝負について、各局の戦いぶりを今回から3回にわたって見ていく。解説は一力棋聖の師匠の宋光復九段。師匠ならではの視点を交えながら、一力棋聖の妙技も紹介する。(文化部 江口武志)
決勝五番勝負第1局は8月12日、中国・重慶のホテルで行われた。【1譜】の黒77が強気な一手だ。右辺から中央に伸びる白が、勢力の拡大をもくろんでいる。
【参考図1】の進行は、黒が下辺に眼形を確保できる有力な順だが、白4で中央の広さを主張されそうだ。宋九段は「互いの主張を許さない、妥協のない進行だった。白92では白イと打つ方が良く、一力棋聖の気迫が、謝九段の失着を誘ったのだろう」と分析する。
対局中から話題になったのが、【2譜】の黒133だ。部分的に「空き三角」となり、避けるようにと教わる愚形だが、宋九段は「白の一瞬の隙を突いた妙手」と指摘する。この手が打たれると、日本棋院公式ユーチューブチャンネルの人工知能(AI)でも、一力棋聖の勝率が約14%上昇した。
黒133に対して、謝九段は【参考図2】の白1と打ち、形良く中央上部と左辺の石を守りたい。しかし、黒16までの進行が一例で、中央上部の白石と左辺の黒石の攻め合いで一手負けてしまう。
実戦の白134はやむを得ないが、黒141で中央から左辺の黒石の生きが確定して、黒が優勢になった。この対局は終盤の粘りに力を発揮する謝九段を相手に341手まで続き、一力棋聖は正確な計算力で接戦を制した。
謝九段には今年6月、中国のトップ棋士らが戦う団体戦「甲級リーグ」で敗れていた。宋九段は「甲級リーグでの対局の内容に、一力棋聖は不満を持っていて、『もう同じ間違いはしない』と話していた。本局は気持ちの入った勝利だった」と語った。
その後、一力棋聖は7月の応氏杯準決勝三番勝負で、囲碁の人工知能(AI)「アルファ碁」との熱戦で知られた中国の柯潔九段に2勝1敗で勝利した。一力棋聖と親しい大橋拓文七段によると、一力棋聖が準決勝の対局後、「柯九段には、白番を持てば勝てると思っていた」と語っていたという。その時の様子について、大橋七段は、「とても落ち着いた様子だった。これまでにない自信を感じた」と話した。
応氏杯世界選手権決勝五番勝負第1局(8月12日)
黒 一力遼棋聖
白 謝科九段
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