[プレーバック応氏杯…3]劣勢でも冷静さ貫き、一力遼棋聖が逆転で2連勝…宋光復九段「五番勝負の流れ決めた」
読売新聞 / 2024年10月28日 11時30分
幸先良く決勝五番勝負第1局に勝利した一力遼棋聖は、2日後の8月14日、中国・重慶の同じ会場で行われた第2局に臨んだ。この対局は、シリーズの流れを決める激戦となった。(文化部 江口武志)
対局がなかった同13日、一力棋聖は、通訳兼研究相手として同行した許家元九段とジムで汗を流した。そして気持ちも新たに第2局を迎えた。【1譜】の白86が、一力棋聖の師匠、宋光復九段いわく「物議を醸した手」だ。白88に対して、【参考図1】の順で、△の黒2子を捨てて、下辺の地を取りに行く方針が見えるからだ。「白にとって、右辺は見た目より地が小さい」と宋九段。
実戦は黒89から、対戦相手の謝科九段も真正面から応じた。宋九段は「両者は互いに実力を評価しており、読みの波長が合っているように感じた」と話す。
優位を拡大したのは謝九段だったが、【2譜】の黒141で形勢を損ねた。宋九段は「先手を取って攻めたいので、人間は打ちたくなる手」という。
代えて【参考図2】の黒1が有力だった。黒9まで進むと、右辺の白に生きがない。実戦は黒141と白142との交換が入ったことでダメヅマリとなり、黒151から黒155の守りは必須だ。しかし、白156で左右の黒石が接続できない。宋九段は「一力棋聖が謝九段の失着に鋭く対応して、逆転できた」と指摘した。
今回の五番勝負で、一力棋聖は劣勢の中でも冷静さを貫いた。2017~18年には、井山裕太王座にタイトル戦で連敗。形勢が悪くても動じない井山王座に、勝ちきれない対局が続いた。宋九段は「形勢が悪くてもひたむきに打ち続けたことが、運を引き寄せた。五番勝負の流れを決めた勝利だ」と、弟子の成長をたたえた。
応氏杯の基本的なルールは他棋戦と同じだが、コミは8目となっている。最も特徴的なのは“時間を買う”というもので、五番勝負では、持ち時間の3時間半を使い切ると、1局につき2目のペナルティーと引き換えに35分の延長が3回までできる。一力棋聖は計5回行使し、第2局では持ち時間を2回延長した。一方、謝九段は第2、3局で各1回にとどまった。
宋九段は「謝九段は第1局の接戦を落として、一力棋聖に勝つのは容易ではないと思い、2目のデメリットを避け、時間の消費を抑えたのだろう」と分析した。
応氏杯世界選手権決勝五番勝負第2局(8月14日)
黒 謝科九段
白 一力遼棋聖
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