日陰を歩き続けてきたアイドルが「トロッコ」でかなえた夢、スケーターに重ねる思いとは…清司麗菜の#skatelife
読売新聞 / 2024年10月31日 12時0分
NGT48の清司麗菜さんはスケートボードに打ち込むアイドル。一見華やかに見える世界でも、それが「仕事」となると厳しい世界のようです。そんな中、届いたあるスケーターが達成した快挙。その吉報に思うこととは――。「清司麗菜の#SkateLife~continuity180~」の第23回です。
厳しいアイドルの「順番」
トロッコに乗るという夢がかなった。
アイドルのコンサートでお客さんの近くまで行くときに乗る、アレだ。ライブ映像とかでよく見る光景だけれど、実は選ばれたメンバーじゃないと乗ることはできないから、結構ハードルが高いのだ。今から2年前、NGT48の劇場で行われた生誕祭のイベントで、「トロッコに乗れるようなメンバーになりたい」と宣言した。でも、トロッコがあるような会場でコンサートをする機会はめったにない。
そんな中、今年10月12、13日に横浜市の「横浜BUNTAI」で「Boostyファンまつり」というHKT48さんとの合同イベントが行われた。ここで私はトロッコに乗ることができたのだ。
初めての試みとなったこのイベントでは、コロナ禍に入って長らく開催されていなかった握手会の代わりに、「ハイタッチ会」という形でファンの方と約5年振りに交流することができた。48グループ本来の姿が戻ってきたような気がして、うれしかったなぁ。そして私にとっては、夢がかなった2日間にもなった。
夢がかなった――といった後にこんな話をするのもなんだけど、アイドルの世界はすごく厳しい。「順番」がつきものだからだ。
ステージでの立ち位置、振り付けなどがこの順番で決まる。コンサートは特殊で「何列目」という曖昧なものではなく、一人一人に番号が割り当てられることもある。つまり、一目瞭然でグループ内での自分の立ち位置がわかってしまうのだ。トロッコに乗れるようになるまでの道のりは、決して
このイベントは、昨年12月に加入したNGT48の4期生が出演した初めての大きなステージだった。コンサートの経験値が圧倒的に高いHKT48さんとのステージは、NGT48にとって刺激的なことがたくさんあった。
夢をかなえられてうれしかった反面、去年12月にアイドルになったばかりの4期生には初めて順番という「現実」が突き付けられた。悔しかった後輩たちもたくさんいると思う。
何を隠そう、私もその一人だった。NGT48に1期生として加入してから、その”順番”はずっと低空飛行。同期や後輩が前に立つ姿をみながら、自分の置かれた立ち位置を受け入れてきた。
悔しい期間はそれなりにあったけれど、2021年、6枚目のシングルが発売時に選抜から外れたときは「やっぱりな」って感情しかわかなくなっていた。今振り返っても「ギリギリだったな」って思う。そして、その年にスケボーに出会った。
驚く環境の変化
ここ最近、アイドルになってから、今までにないくらい忙しかった。10月7日にはSASUKEのアイドル予選会にも呼んでいただいて、その週末に「Boostyファンまつり」にも出演。1日休んで、翌日からまたお仕事やレッスンをする日々。11月9日には「スケボーのまち まつばら Street SK8 Cup in Matsubara」という大会にエントリーしている。しばらく乗れていなかったスケボーの練習もはじめなきゃ。11月23日にはスケートボードの世界最高峰の大会「SLS」の取材にも参加する。
正直、自分でも環境の変化にびっくりしている。厳しいアイドルの世界で、自分のグループの中でさえ低空飛行だったのに、ここ最近、仕事がたくさんある。大変だけれど、今が一番充実している。忙しいって、ありがたいことだなぁ。
そんな慌ただしいスケジュールの中、舞い込んできたニュースがあった。10月12、13日に行われたSLSのシドニー大会で、白井空良選手が初優勝を飾ったのだ。白井選手は9月に千葉市で行われた「Xゲームズ千葉大会」でも優勝している。
白井選手には、色んな感情を重ねてしまうのだ。私がアイドルとして結果を出せずに日陰を歩いてきた2021年。白井選手はこの年の東京五輪の準決勝で敗れた。一方で、優勝したのは、堀米雄斗選手だ。日本中が「堀米フィーバー」に沸く中、白井選手はどんな気持ちだったのだろう。
でも、白井選手はすごかった。インスタグラムには日々、練習に打ち込む様子を投稿し、仲間とスケボーをする姿を見せ続けている。華やかな世界だけでなく、日常的なスケートライフを見せるところに、白井選手の人柄が表れている。
彼はエンターテイナーだ。実際に取材をした時もすごく気さくでユーモラスに話をしてくれたし、試合中も会場を盛り上げる。スケーターなら当然みんな、彼のことを知っている。でも、ひとたびスケボー界を離れてみたら、彼の歩みは堀米選手の陰に隠れ続けていたと思う。今年行われたパリ五輪でも表彰台を逃した。でも、いくら苦しい思いをしても、白井選手は結果を残し続け、日本のシーンを引っ張り続けている。まさに、背中で語る男だ。
世界的スケーターは「同級生」
白井選手と私は、2001年生まれの同学年で、今年23歳になる(私はもうなったけど)。私たちは、世間から見ればまだ若い。でも、「業界」として見たらどうだろう。
5歳でスケボーを始めたという白井選手は18年スケボーに乗り続けているわけだし、私もバイトAKBとしてアイドルになったのが14歳のときだったから、今年で「アイドル10年目」。スケボーもアイドルも、中心の世代は10代に移りつつあって、私も白井選手も、もう十分ベテランの域に入っている。
そんな私は、最近、よく後輩のことを考える。順番に悩み、アイドルとしてもがいている後輩たちの姿に、自分の姿を重ねる。厳しく指導することもあって、たまに自分のことが嫌いになることがある。でも、彼女たちには「アイドルになって良かった」と思う瞬間がいつか来るまで、走り抜けてほしい――と願うからこそだ。
白井選手が地元で練習場を監修して、若い世代のスケーターを盛り立てて、国内のシーンを支えてきたこと。私のあるべき姿がそこにあるような気すらする。
でも、支える側に回るだけではない。今回、白井選手がSLSで初優勝した。ライバルの堀米選手はずいぶん前に達成しているけれど、なんだか私はその事実に勇気をもらう。
アイドルの世界で、若い時から活躍したり、デビューから花形だった人たちに憧れたりしたことは一度や二度じゃない。つかみ取ろうとして、すり抜けていったチャンス。もがいても変わらない状況。何度も挫折して、数えきれないほど悔しい思いをしながら、私は一歩ずつ前に進んできた。だからこそ、今の自分があるのかもしれない。誰かの陰に隠れていても、きっと成長できる。それがいつ花開くか、それは誰にも分からない。そして、それを待ってくれている人もきっといる。
決して華やかではない、私の生活。だけど、そんな自分がけっこう好きだ。目の前にある日々の仕事に全力でぶつかっていく。そんな姿が私には合っていて、一番カッコいいってことをスケートボードが教えてくれたから。
プロフィル
清司麗菜(せいじ・れいな)
NGT48の1期生。埼玉県出身。「バイトAKB」として2014年にアイドルのキャリアをスタートさせ、2016年にNGT48に加入。全国スケートボード施設連絡協議会アンバサダー。趣味はスケボーのほか、歌うこと、筋トレ。Instagramは「@reinaseiji」、X(旧Twitter)は「@official_seiji」。
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