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古代史を志した理由は、子供のころ読んだ手塚治虫の『火の鳥』 倉本一宏さん

読売新聞 / 2024年11月1日 15時15分

『火の鳥2 未来編』手塚治虫著(角川文庫) 968円

 古代史を志した理由の一つに、子ども時代に読んだ手塚治虫の歴史漫画『火の鳥』の存在がある。『鉄腕アトム』『ブラック・ジャック』など、他の手塚作品も愛読してきた。伊勢、京都や奈良が近い津市出身で、遺跡めぐりなど歴史が好きだった少年は、『火の鳥』に格別の魅力を感じた。「スケールの大きさに圧倒された。今になっても、驚きは色あせません」

 古代や未来、地球や宇宙と様々な舞台をもとに、人間の生と死を描き、戦争や環境保護、科学文明のあり方などを考えさせる壮大な物語だ。「永遠の命」をもたらすとされる火の鳥は各回に登場し、人間の運命を空から()(かん)する重要な存在として描かれる。

 「歴史研究では、『鳥の目』『魚の目』『虫の目』が大事と言われる。物事を長いスパンで考える『鳥の目』は『火の鳥』を読むことで養われました」

 日本の歴史がテーマの巻では、邪馬台国を描いた「黎明れいめい編」に始まり、古墳時代の「ヤマト編」、奈良時代の「鳳凰ほうおう編」などを経て、平安末期の源平争乱を描いた「乱世編」まで様々な時代が舞台となっている。

 倉本さんも歴史学者としては「幅広い時代を手がけている方」だと自負する。「邪馬台国から平家滅亡まで広いスパンで執筆してきたのも、少なからず『火の鳥』の影響を受けた」

 ヒミコ(卑弥呼)や大海人皇子、平清盛ら、歴史上の人物の描写も秀逸だ。ただ、自身の専門分野で、藤原道長らが活躍した平安時代中期をテーマにした回がない。「道長を描いた『望月編』がないのは残念だが、清盛は道長を模範として生きていた節があり、『乱世編』の清盛には道長のイメージが込められているのでは」と読み解く。

 大学教員時代、授業の教材として、作品に通底する「愛」「(りん)()」などをテーマに講義した。後に買い足したハードカバー版(角川書店)を今も自宅に置く。

 「未来編」の山之辺マサトは地球上の生物が滅亡した後に生命の復活を追求した。後には、海に合成生物のもとである有機物を流し、将来の復活を期す。

 自身の仕事でも、膨大な平安時代の古記録をこつこつと訓読し、国際日本文化研究センターのホームページで公開し、現代語訳を刊行してきた。「データベースや現代語訳は永遠に残る。私の生きている間には無理としても、古記録に親しむ方が増え、平安時代史研究が発展すれば」。歴史学者としての本望を語った。(多可政史)(おわり)

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