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「生き延びることが本当は一番の正義」…白石和彌監督、集団抗争時代劇「十一人の賊軍」を語る

読売新聞 / 2024年10月31日 14時0分

「十一人の賊軍」から=2024「十一人の賊軍」製作委員会

 監督・白石和彌(かずや)、主演・山田孝之、仲野太賀による集団抗争時代劇「十一人の賊軍」(配給・東映)が11月1日、公開となる。描かれるのは、戊辰戦争のさなか、越後・新発田藩の捨て駒として「最前線」に送り込まれた罪人たちの死闘。砲撃、爆発、接近戦……迫力と生々しさを帯びたアクション、そして登場人物それぞれの生き方を、誰でも楽しめるエンターテインメントとして描きながら、浮き彫りにしようとしたものは――。白石に話を聞いた。(編集委員 恩田泰子、文中敬称略)

戊辰戦争中の「裏切り」題材

 題材は、戊辰戦争中、新政府側と奥羽越列藩同盟の板挟みになった新発田藩の「裏切り」。そのままでは両勢が新発田で鉢合わせしかねない状況下、藩家老・溝口内匠(阿部サダヲ)は一計を案じ、駕籠(かご)かきの(まさ)(山田孝之)ら刑場送りの罪人たちを「決死隊」として駆り出す。「新政府軍の侵攻から砦を守れば無罪放免」と約束された罪人たちは、若き藩士・鷲尾兵士郎(仲野太賀)らが同行する中、戦いに臨むが、多勢に無勢。地獄を見る。

 脚本は「孤狼の血」などでも白石監督と組んだ池上純哉、原案は名脚本家・笠原和夫(1927~2002年)による1964年のプロット。笠原は「仁義なき戦い」「博奕(ばくち)打ち 総長賭博」「大日本帝国」など実録映画、任侠(にんきょう)映画、戦争映画の名作群をのこした。「十一人の賊軍」は、脚本も書いていたが、映画化のゴーサインが出なかったため自身で破り捨ててしまったという。

壮大なセット「壊すために作った」

 撮影は、2023年8月から11月にかけて行われた。そのうち9月上旬から10月下旬の2か月間は、千葉県・鋸南(きょなん)町に造られたオープンセットで。記者も撮影を見学したが、壮観だった。東京ドーム1個半ほどの広さの場所に、もともとの地形を生かしつつ、砦の大門、本丸、物見やぐら、そして「攻防の肝」となる()り橋とそれがかかる川などが造られた。そんなセットが、物語が進むにつれ、どんどん破壊されていく。

 「初めからあるものだったら映画のために壊せないじゃないですか。壊すために造ったものだから、壊したほうが成就できますよね」と白石は笑う。

 集団抗争時代劇(※注)は「僕にとってのロマンみたいなところがあった」と言う。笠原の軌跡をロングインタビューでたどる名著「昭和の劇 映画脚本家 笠原和夫」(笠原と荒井晴彦、絓秀実の共著)を通して、東映の脚本家だった笠原が「十一人の賊軍」を書いていたことを知り、のこされていたプロットにたどりつき、ひかれた。

 「僕がやりたいものとプロットが合致したんだと思います。あと、小説とか漫画原作だと、時間の流れも含め、話が『映画サイズ』になっていない。でも、やっぱり笠原さんは映画の人なんで、大作であっても映画サイズなんです」。また、笠原が「成就できなかった」作品だったという点もポイントだった。「大作をやる上では、企画にストーリーがあるということも、すごく重要なので」

 (※注)集団抗争時代劇は、様式化した時代劇から離れて、生々しいリアリズムを志向した作品群を指す。東映では、1963~64年ごろに目だって作られた。主な作品に、工藤栄一監督による「十三人の刺客」「大殺陣」など。

「全員討ち死に」にしなかった理由

 「昭和の劇」で笠原は、かつて「十一人の賊軍」の映画化が流れたてんまつを明かしている。東映京都撮影所でのホン読み(脚本第1稿の検討会議)で笠原自ら脚本を音読していると、途中で当時の岡田茂所長(71年に社長就任、93年に会長。その後、相談役を経て名誉会長。2011年に死去)からラストを尋ねられ、「全員討ち死にで負ける」と伝えると、「そんな負ける話なんてどうすんのや!」と言われて、「アウト」に。そして、笠原は、200字詰め原稿用紙にして350枚もの脚本を自ら破り捨てることとなった。

 もっとも、白石監督の「十一人の賊軍」は「全員討ち死に」ではない。生き残る者が2人いる。「脚本の池上さんは、『こういうことに巻き込まれた時、逃げるのも重要なことなんじゃないかということをやっぱり残しておきたかった』と言っていました。僕もその通りです。生き延びることが本当は一番の正義なんだっていうことを、誰かがどこかで言っていいかな、と」

 そして触れたのは、白石の師である若松孝二監督の映画「キャタピラー」(2010年)で、篠原勝之が演じる男のこと。戦中は奇矯なふるまいを見せているが、戦争が終わると様子が変わる。「そういうことも終わってみると実は正義かもしれない、ということをちゃんとやっぱり言うべきなんでしょうね、本当は」

切り捨てられる者、切り捨てる者

 たくさんの登場人物が出てくるが、監督自身が心を寄せた人物はいるのだろうか。尋ねると、「それは結構、平等ですね」。

 ただ、当然ながら、主演の山田と仲野が演じる2人への「思い入れは強い」という。「(山田が演じる)『政』なんか、もうずっと自分だけ助かろうとしていて、とても主役とは思えないキャラクターなんだけれど、でもやっぱり最後の最後に……。ああいうところがやっぱり人間だな、とも思う」

 仲野が演じる兵士郎は、藩を思う気持ちをたぎらせているが、「でも、そういう人たちも、政治のもとでは、やっぱり切り捨てられてくんですよね」。

 では切り捨てる側である家老は、どんなふうに描こうとしたのだろうか。「城下で戦を起こさないように最善を尽くしている、僕から見れば、超優秀な政治家というか、多少の犠牲はやむなし、ということはもう当然わかっているというか。(砦へ)送り込んだ侍たちの無事を当然祈っていたりはするんでしょうけど、罪人を行かせていること自体は何とも思ってないんじゃないんですか。プーチンとかも心痛めているとは思えないですもんね。権力ってそういうもの、ということを可視化しているというか」

 そこをたんたんと描いているのが、この映画の怖さでもある。「たまたま、この家老が、新発田という小藩で、たまたまこういう状況に置かれたら選んでいった道で、何かこの人が特殊なんじゃなくて、この役割に就いていた人が誰であれ、そういうことを犯す可能性があるという話ですよ。それがやっぱり戦争なんだと思うんですよ」

 ウクライナ侵略でも、受刑者が兵士として駆り出された。最初はロシアの民間軍事会社「ワグネル」が勧誘して前線に大量投入、後にワグネルの役割をロシア国防省が引き継いだ。侵略の長期化により、ウクライナ側もその手法の踏襲を余儀なくされたと報じられている。

時代劇継承問題

 今年は、「碁盤斬り」、そして本作と、白石監督による時代劇映画が2本公開となった。ただ、それを支える制作技術の継承については危機感を抱いている。

 「京都をはじめ、まだまだすごくレベルの高い職人さんがいっぱいいますが、それを継承して、誰かがやっていかないと、本当に(技術が)なくなっちゃいます。本来は、国とかがお金を出して継承につなげるべきだと思いますけど、日本は国が文化への関心がないんで」

 今年9月、真田広之がプロデュース・主演を務める米国のドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』が、米国テレビ界最高の栄誉とされるエミー賞で、作品賞を含む史上最多の18部門を受賞した。もし、日本という国が、自国の映像文化として時代劇を誇るのならば、白石の言葉を重く受け止めるべきだろう。

「昭和っぽい」を超越して

 ところで、白石の監督作を振り返ると、「凶悪」はじめ、「過去」を舞台にした作品が目立つ。その理由を尋ねると、「いや、僕が聞きたいですよ」と言いながらも、答えてくれた。

 「僕が撮るものが『昭和っぽい』っていうのはあると思うんですよ。デビューしたての頃はすごくいやだったんですよ、その感じが。『なんか、お前が撮ると昭和っぽいな』ってすごい言われるわけじゃないですか。『いや、俺だってポップにできるよ』と思って、やってみると、やっぱり昭和っぽいのを自覚して」

 でも、それがアドバンテージになった。「『孤狼の血』とか撮ると、そのスキルが生きるわけですよね。ああ、そうなんだ、これは長所なんだって思えて」と言う。そして、「時代劇やったら、より(自分に)マッチした感じなんで、昭和でもなかったってことかな」と笑った。

 ただ、その作品はまぎれもなく、今を生きる人たちに向けられている。デビュー作「ロストパラダイス・イン・トーキョー」(2009年)の公開時にインタビューした時、白石はこう語っていた。「1974年生まれの僕らの世代は、社会に出た時にバブルが崩壊。そこから延々と不況が続き、社会に希望が持てない人がたくさんいる。そういう人たちにとっての希望って何だろう。(同作もそうだが)これからも追求していきたい」と。

 そこは「あながち、ぶれてない」。今も「変わってないなって感じです」。

 ◇白石和彌(しらいし・かずや)=1974年生まれ、北海道出身。95年に中村幻児監督主催の映像塾に参加したのち、若松孝二監督に師事。映画「凶悪」(2013年)で評価を一気に高める。その後も「日本で一番悪い奴ら」(16年)、「彼女がその名を知らない鳥たち」(17年)など話題作・注目作を次々発表。でブルーリボン賞監督賞を受賞。「孤狼の血」(18年)、「孤狼の血 LEVEL2」(21年)でも人気・評価を集める。

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